研究課題/領域番号 |
23530688
|
研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
尾崎 寛直 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (20385131)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
|
キーワード | 社会的災害 / 放射線被曝 / 公害 / 薬害 / 補償・救済制度 |
研究概要 |
平成23年度は,本研究の初年度ということで,平成22年度までの科研費若手研究で行ってきた大気汚染公害と水俣病の問題とは対象範囲も規模も広がるため,単なる「広く浅い」研究にならぬよう,課題のスクリーニングを行うことに努めてきた。 折しも本研究開始の直前に3・11の東日本大震災・原発事故が発生したことで,放射能汚染および被曝の健康影響についての認識の必要性が急速に高まってきたこともあり,当初から位置づけていた原爆症(広島・長崎)の健康障害および被害補償の実態調査に併せて,福島第一原発事故周辺地域における放射線被曝の実態把握と被害発生の可能性についても研究の重点を置くことになった。福島での放射線による健康障害の発生の可能性およびその対処のあり方を考える上でも,広島・長崎での原爆症の経験は最も重要な教訓となるからである。 このように原爆症だけでなく原発事故による被害も社会的災害の研究対象に加えながら年度の前半はこれらの問題把握に時間を割いたが,秋以降は少し鳥瞰的に薬害や食品公害についてもサーベイを開始し,各事件に取り組んできた研究者,弁護士,被害者支援者から知見を得つつ,彼らと協同しながら,年度末には市民公開の研究シンポジウムを開催することができた(本研究の着想の土台となった2009年開催のシンポジウムの第2弾 「原爆症,森永ひ素ミルク事件,医薬品副作用被害,薬害エイズ,そしてフクシマ 『被害補償』のあるべき姿を問う」2012年2月4日開催,筆者が司会・コーディネーター)。 また,以上のような横断的な比較制度研究の意義について,関係の学会誌,および海外での学会においてさしあたりの到達点をまとめた論文を発表することができた。いまだ端緒的ではあるが,研究成果を世に問うとともに,本研究の方向性もより明確になってきたと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は,研究のスタート地点として,研究対象全体のサーベイを通して課題のスクリーニングを大きな目標としていた。 予想していなかった前年度末の大震災・原発事故により,放射能汚染問題に関するサーベイおよび調査研究も追加せざるをえない状況になったため,原爆症に加えて原発事故の放射線被爆問題に年度前半は大きな時間を割くことになったが,年度全体を通してみると,研究課題である横断的な比較制度研究の意義を学会発表(海外で開催),さらに学会誌への論文掲載という形で問題提起できたこと,食品公害・薬害・原爆症の各制度を横断的に比較するシンポジウムの実現など,今後さらに各論で研究を深めていく土台はできたのではないかと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
上述の到達点をふまえて,次年度からは対象とする各社会的災害の被害実態や補償・救済制度についてさらに個別的に実態把握を進めることになる。そのために,一次資料の発掘および既存文献のサーベイはもちろんのこと,上記シンポジウムの準備過程で協同してきた研究者や弁護士らとの研究会も継続的に行いつつ,分野横断的に比較の指標となる共通の項目を括りだし,そうした観点のもとに現地での実態調査を行うという順序になるだろう。
|
次年度の研究費の使用計画 |
前年度と大きく異なることはないが,引き続き,(1)購入可能な資料・文献収集,(2)現地での当事者団体・弁護団・現地研究機関・行政へのヒアリング調査のための出張費,(3)上記に関連する文具やパソコン関連商品等の購入,などに充てさせていただくことになろう。
|