研究課題/領域番号 |
23530688
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研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
尾崎 寛直 東京経済大学, 経済学部, 准教授 (20385131)
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キーワード | 社会的災害 / 補償制度 |
研究概要 |
第2年度にあたる平成24年度の成果は、結論から述べると、研究対象についてより具体的に実地調査をふまえた知見の深化を図ることができたこと、そして端緒的ではあるが学会誌等に本研究の研究成果を複数発表して、本研究の意義を一定程度世に問うことができたこと、といえる。 研究対象に関しては、当初からの課題である原爆症(広島・長崎)の健康障害および被害補償制度の実態調査に併せて、昨年度後半から取り組み始めた、福島第一原発事故被災地域における放射線被曝による健康被害の可能性、健康不安等について、複数の自治体(主として大熊町、飯舘村、いわき市)をモデルケースに住民や行政等の定点観測を続けることにした。もちろん口述調査と並行して文献収集、一次資料の発掘を行って、資料分析も行ってきた。 研究成果の公表については、まず、昨年度末に筆者が司会・コーディネーターを務めたシンポジウム「原爆症、森永ひ素ミルク事件、医薬品副作用被害、薬害エイズ、そしてフクシマ 『被害補償』のあるべき姿を問う」(2012年2月4日開催)の成果を、今年度、報告集にまとめるとともに、関係学会等の学会誌および学術雑誌にこのような比較研究の意義に関する論文を複数発表した(環境経済・政策学会編『環境経済・政策研究』など)。 また、筆者が平成22年度までの科研費若手研究の時から研究を続けてきた大気汚染公害の被害者に対する補償制度に関して、制度創設に大きな役割を果たした大阪・西淀川地域(大気汚染激甚地)の医療者・被害者・行政についての歴史的経緯、および現代的意義を共著書にまとめて発表することができた(『西淀川公害の40年』ミネルヴァ書房、2013年3月刊)。 以上、いまだ研究途上だが、分野ごとの研究蓄積を成果として公表していくことができており、各分野を統合した横断的な比較制度研究という当初の目的に徐々に近づいてきていると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の課題は、上述のように研究対象の概括的なサーベイ(昨年度)から、現地の実態調査をふまえてより実質的な知見を得ることを目的としてきたが、全ての分野を1年で行うのは物理的に困難だとしても、原爆症(放射線被曝)および大気汚染公害についてはかなりの成果を得ることができたといえる。 また、第2年度ということもあり、徐々にできるところから研究成果を形にしていくことも求められる。そうした意図から、まず、横断的な比較制度研究の意義について、学会誌および学術雑誌にそれぞれ論文を発表し、本研究の目的とするところをアカデミズムの場に多少なりとも位置づけることができたと思われる。 さらに、大気汚染公害の被害救済に関して、数年来続けてきた研究を著書(共著)にまとめるとともに学術雑誌にも近年の動きをフォローする論文を執筆することができた。放射線被曝に関しては、書評論文および研究ノートを発表するなど、各分野についての研究蓄積を可能なところから公表することで、次年度以降さらに被害補償・救済の研究対象を順次広げていくことができるような状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
上述の到達点をふまえて、次年度以降も対象とする社会的災害の範囲を広げ、被害実態や補償・救済制度について個別的に実態把握を進めることになる。そのために、一次資料の発掘および既存文献のサーベイはもちろんのこと、上記シンポジウムの準備過程で協同してきた研究者や弁護士らとの研究会も継続的に行いつつ、現地での実態調査を行うという順序になるだろう。 また、次年度中、新たな研究対象において分野横断的に比較研究が進展すれば、第3弾のシンポジウムの開催も考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度大きく異なることはないが、引き続き①購入可能な資料・文献収集、②現地での当事者団体・弁護団・現地研究機関・行政へのヒアリング調査のための出張費、③上記に関連する文具、パソコン関連商品等の購入、などに充てさせていただくことになろう。 ただし、研究の進展によって、第3弾のシンポジウムの開催など広く世間に本研究の意義を伝える機会をもてる場合には、研究報告書の作成費用を計上させていただくことを考えている。
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