研究課題/領域番号 |
23530709
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
津止 正敏 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70340479)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | ケア / ケアラー / アソシエーション / 介護者運動 / 家族介護者支援 |
研究概要 |
本研究は「ケア/ケアラーズ」を機軸とするケア包摂型コミュニティの開発及びボランタリーアソシエーションを研究テーマとして設計している。病や障害のある家族のケアに関与する家族介護者・養育者・介護者(以下「ケア/ケアラーズ」)という「社会層」を対象化して組織されるボランタリーアソシエーションが、ケア包摂型ともいうべき新たなコミュニティ開発の動力装置として如何に機能し影響するか、ということに深い問題関心を置いている。 研究の初年度である平成23年度には、カウンターパートである「男性介護者と支援者の全国ネットワーク(男性介護ネット)」及び「京都障害児放課後ネットワーク」など研究協力者・機関・団体を主要メンバーとした研究会を定例開催し、以下の項目に関する調査研究を実施ないしは実施準備に取り掛かった。 (1)ボランタリーアソシエーション・コミュニティ開発・「ケア/ケアラーズ」等に関する先行研究レビュー、定例研究会、公開研究会の開催を行なった。(2)男性介護ネットと共同して、2010年度に実施した「第1回会員基礎調査」を元に、本研究連携研究者(斎藤真緒)と共著で家族介護者支援の論理と根拠を論じた著書『家族介護者支援の論理』(立命館大学、2012年3月)をまとめた。(3)京都障害児放課後ネットワークが実施した「障害児家族の介護離職調査」(2010年度実施)の分析作業を進め、障害児家族の介護と就労の課題を論じた論文「『母親業』の分担を公的モデルで」(『障害のある子どもの放課後活動』<かもがわ出版、2011年10月>所収)をまとめた。(4)「仕事と介護の両立に関する調査(社員向け・企業向け)」(京都市委託事業)について連携研究者(斎藤真緒)が研究代表となって実施した。この研究成果は、男性介護研究会(2012年3月3日)、京都市主催の研究成果報告会(2012年3月22日)において報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「ケア包摂型コミュニティ」の構築に、病や障害のある当事者本人、家族介護者、支援者の組織化やその相互関係、自発的な関与、連帯(ボランタリーアソシエーション)がどのように関係し影響するのか、を主題としている。そして、ケア包摂型コミュニティやボランタリーアソシエーションが同時に可視化する舞台として、当事者本人、家族介護者、支援者の組織とそのネットワーク(本研究では「ケアラーズユニット」と称した)を位置付け、それが如何なる機能を発揮し、どのように意義付けられるか、ということを明らかにしようとしている。初年度に実施した男性介護者や障害児家族の調査は、「ケアラーズユニット」が発揮する機能や意義付けを直接的なテーマとしたものではなかったが、本研究の主題にも深く関与するものとなった。また、この研究過程でカウンターパート、その関連団体との信頼関係も深まり、研究フィールドを更に拡大・強化することも出来た。初年度の研究では「ケアラーズユニット」は、同じ立場の人と交流できる場、同じ立場の人の中だからこそ、自らの頗る両義的な介護感情を吐露し得る場、「ひとりじゃない」ということを文字通り実感する場、としての機能を発揮している場として理解され支持されていた。こうした「ケアラーズユニット」において生産される経験知を手掛かりに、次年度以降、ケア包摂型コミュニティの概念規定とその動力としてのボランタリーアソシエーションの相互構造性の解明にアプローチしていく。
|
今後の研究の推進方策 |
研究代表者(津止)は平成24年度1年間の学外研究期間にあたっている。この期間を最大限活用して、ボランタリーアソシエーション・コミュニティ開発・「ケア/ケアラーズ」等に関する先行研究レビュー、定例研究会の開催、公開研究会の開催等を継続して行なう予定でいる。具体的には以下の計画を持っている。 (1)「ケア包摂型コミュニティ」の概念化のための基礎研究を継続して行う。(2)男性介護者と支援者の全国ネットワークに関係する各地のケアラーズユニットに関する全国調査を実施する。実施方法はアンケート調査及びインタビュー調査によって行う。(3)先行の調査を元に「ケアラーズユニット」のリストを作成しつつ、研究代表者が主催する男性介護研究会及び男性介護者と支援者の全国ネットワークの各種イベントにおいて研究成果の社会的還元を図っていく。(4)社会問題化している「介護と仕事」を、ケアの担い手としての家族介護者に生じている最も困難且つ今日的なテーマとして取り上げる。就労こそが市民の社会参加のコアと位置づくものであることからすれば、介護による就労困難はコミュニティ形成の契機にも、逆にその阻害要因ともなりうる。「ケア包摂型コミュニティ」を社会問題論・社会運動論という視角からアプローチしていくことの意味であり、「介護と仕事」が本研究では重要なテーマとなる所以であり、男性介護者の「介護と仕事」の実態把握の研究を継続し、さらに障害児家族、とりわけ障害のある子どもの主たる養育者としてある母親の就労継続とその困難についての研究を継続する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していたパソコンやパソコン周辺機器の購入取り止め、予定していた幾つかの介護者団体等のヒアリング調査のキャンセルによる旅費の未使用、市民公開研究会の会場費や講師謝礼等開催経費及びデータ入力等の人件費として予定していた研究費が、本研究のカウンターパートによる費用分担があったために、平成23年度研究費に未使用が生じた。次年度の研究費の使用計画において、取り止めた必要物件を購入し、また未実施に終わったヒアリング調査を実施し、必要な市民公開研究会を次年度に実施する事とした。
|