研究課題/領域番号 |
23530716
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研究機関 | 大阪体育大学 |
研究代表者 |
板原 和子 大阪体育大学, 公私立大学の部局等, 教授 (50390175)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 精神障害者処遇 / 江戸時代 / 近世都市 |
研究概要 |
これまでの江戸時代の精神障害者に対する公的処遇の研究は、主として江戸という一都市に関する研究であったといえる。本研究は、大坂、京都、金沢、長崎等の都市の調査研究を実施し、江戸時代の処遇の性格を更に明瞭にしようというものである。 初年度は「山崎文庫」、『日本庶民生活史史料集』から事例を収集すること、そして大坂、京都での処遇について調査することを課題とした。まず、江戸時代の法学、医学、歴史学等多岐にわたる領域の一次史料が所蔵されている「山崎文庫」(順天堂大学医学部医史学教室)の調査を行った。これまで、「山崎文庫」の中の「飯田本」と呼ばれる役人による8冊の手引書について複写、翻刻をすすめてきたが、今回はそれ以外の史料について、調査した。 山崎文庫の所蔵資料が大量であるため、山崎佐がその一部を『犯罪学雑誌』に翻刻・紹介した「検視史資料類纂」(1932年9月号から1943年11月号までの65号にわたる連載)の目録をつくり、「山崎文庫」でそれらの文書の存在を確認するために、あるいは十分翻刻されていないものを補うために、順次閲覧していった。本研究の目的である各都市の事例は、残念ながら確認することができなかったが、精神障害者の当時の実態にかかわる事例は、数多く収集することができた。 『日本庶民生活史史料集』については、主に第14巻「部落」から、精神障害者の各都市の事例を収集した。そして江戸時代の大坂において、精神障害者が処遇されていたと目される「高原溜」については、その所在地を明瞭にするところまで文献調査をすすめることができた。しかし、そこにおける具体的な処遇を示す史料に出会えることはできていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度の史資料収集の主眼であった「山崎文庫」での調査は、数年前に閲覧させていただいたときには、書庫で文書を直接手にして調査できる環境であった。しかし現在は、保存上の理由から直接の閲覧は不可能となり、『山崎文庫目録』より選び出して閲覧させていただくという方法がとられている。もとより精神障害者について独立した項目などはないので、「無宿」「行倒」など関連する領域に見当をつけて、文書を数冊ずつ書庫から出していただくという、たいへん時間のかかる作業となった。文字通り1枚1枚見ていくという作業を行った。先に述べたように山崎佐が『犯罪学雑誌』に連載した「検視史資料類纂」を手がかりに調査をすすめるという工夫もしたが、「山崎文庫」で必要と思われる文書のすべてを閲覧できていない。また、必要なだけ順天堂大学へ出向く時間を確保することが難しかった。 以上のことから、「山崎文庫」では、江戸時代の精神障害者の実態に関する貴重な史資料は収集することができたものの、江戸時代の都市における事例を収集できなかったので、このような評価とした 。 「山崎文庫」以外の調査は、計画どおりに実施し、多くの史資料を収集できた。しかし予想以上に史資料の収集に時間がかかり、その中から、都市における処遇の事例を抜き出し、活用できる状態にするための翻刻や整理が遅れてしまい、結果として豊富な史資料を得つつも論文化することができなかった。このことも、このような評価とした理由である。
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今後の研究の推進方策 |
江戸時代における精神障害者処遇の新たな知見を得るためには、更なる史資料の収集が必要であり、引き続きその調査に力を注いでいく。23年度は予定していた出張回数が確保できなかかったため、旅費および物品費(複写代等)を繰り越したが、24年度は研究の遅れを取り戻すために出張回数を増やし、その費用を増やす予定である。先に述べた「山崎文庫」での調査は終了したとは言えないが、各都市の事例はなかなか見つかっておらず、研究の効率をあげることを優先し、当初の計画を実施していく。 江戸時代の各都市に、江戸とは違った精神障害者処遇が存在することをうかがわせる事例が『日本庶民生活史史料集』第14巻に多数存在する。そこで得た事例が掲載されている一次史料の存在を確認するため、またそこにおける新たな事例を収集するため、現地の文書館府県立図書館等へ出向く。24年度は長崎と金沢、京都の調査を行う。 また、23年度の反省を踏まえ、収集した史資料から得た事例の翻刻・整理を計画的に、効率的に実施し、パソコンへの入力等、活用できる状態に順次すすめていく。それにもとづき史資料の公表や論文化をすすめる。 江戸時代の精神障害者処遇の研究は、それのみで完結させるような研究とすることなく、明治期以降の日本の精神障害者に対する法制度や人々の精神障害者観に大きく影響していることを視野にいれて研究していく。 25年度は、本研究の成果に、これまで明らかにしてきた江戸における精神障害者処遇に関する研究ならびに明治初期の精神障害者処遇を加え、江戸時代から精神病者監護法成立(1900年)までをつなぐ研究として、出版する準備をすすめていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の研究計画に基づき、調査研究の国内旅費として次のように使用する。長崎市、金沢市、京都市の各府県立文書館を訪問し、資料収集を行う。それぞれ一回ずつの訪問を予定しているが、再度の出張が必要となった場合等の予備を含め、合計20万円とする。 収集した史資料を計画的、効率的に整理、保存するため、協力を依頼する。資料の整理・保存、事例のパソコン入力など適宜実施してもらう謝金として12万円使用する。収集する史資料は、専門業者に接写を依頼しなければならないものが多く、その費用に通常のコピーサービスによる複写代を加えて、物品費として8万円使用する。その他、資料収集用のPCソフト、書籍、資料代として10万円使用する。 上記合計50万円を使用する。
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