研究課題/領域番号 |
23530730
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研究機関 | 新潟県立看護大学 |
研究代表者 |
境原 三津夫 新潟県立看護大学, 看護学部, 教授 (30332464)
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研究分担者 |
櫻井 信人 新潟県立看護大学, 看護学部, 助教 (40405056)
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キーワード | 触法精神障害者 / 医療観察法 / 社会復帰支援 |
研究概要 |
医療観察法に基づく触法精神障害者入院病棟をもつさいがた病院を訪問し、専属の精神保健福祉士に面談し、わが国の触法精神障害者の入院治療の現状について聞き取り調査を行った。さいがた病院では、全国の指定入院医療機関および触法精神障害者の社会復帰時の受け入れ施設に対して、大規模なアンケート調査を行っており、その内容に関しても説明を受けた。さいがた病院は、医療観察法処遇者の入院治療から外来治療、そして社会復帰と連続して触法精神障害者を支援しており、地域住民との関係も良好で、地域で精神障害者を支える体制が整いつつある。しかしながら、さいがた病院が行っているのは医療を中心とした支援であり、触法精神障害者の生活を支援することに関しては、十分な体制が整っているとはいえない。特に、社会復帰に際し独り暮らしが困難である場合は、民間の施設を頼らざるを得ず、受け入れ先を探すのが困難な状況にある。指定入院医療機関と民間施設との間に精神保健福祉の専門職が常駐する中間的な生活施設があれば、社会復帰を円滑に進められる可能性がある。しかし、中間施設の設置には、専門職員の養成・配置も必要であり、大規模な予算措置が必要となる。このため、思ったほど触法精神障害者の社会復帰は進んでいない現状が明らかになった。 また、今年度は触法精神障害者の早期社会復帰に1975年より取り組み、成果をあげているイギリスを訪問し、触法精神障害者に対するイギリス社会の考え方の変遷を知るための資料収集を行った。イギリスでは精神障害者が関わる3つの注目すべき事件が起き、この問題に関して社会的な議論となった。この議論の結果導き出されたマクノートン・ルールは、精神障害者の責任能力に関する基本的原理として、現在でも用いられている。その社会的な議論に関して多くの資料を収集できたので、来年度に向けてそれを分析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医療観察法処遇者が社会復帰する場合、最大の課題は再犯の予防である。再犯予防のために地域社会として整備すべき受け入れ態勢を社会に提示すること、精神科医療従事者や精神保健福祉専門職が行うべき具体的な支援を明らかにすること、精神障害をもつ人々に対する社会の偏見を拭い去るための啓蒙活動の具体的な方法を明らかにすることを目的として本研究は行われている。これらのことを検討するための前段階として、精神障害者が関係した犯罪について、判例や新聞記事を中心に事例を収集した。これらの事例を分析することにより、精神障害者およびその家族が地域社会の中で安心して生活していくことを困難にする要因の抽出を行った。その要因として、医療面の支援ではなく精神障害者を抱えた家族を含めて支えるような福祉的支援が乏しいことが明らかになった。この成果は平成24年度に日本精神保健福祉学会で発表し、また論文としてまとめた。 また、医療観察法に基づく触法精神障害者病棟をもつさいがた病院を訪問し、専属の精神保健福祉士に面談し、わが国の触法精神障害者の入院治療の現状について聞き取り調査を行った。さいがた病院では、全国の指定入院医療機関および触法精神障害者の社会復帰時の受け入れ施設に対して、大規模なアンケート調査を行っており、その内容に関しても説明を受けることで、社会復帰における問題点を把握した。さらに、触法精神障害者の早期社会復帰に1975年より取り組み、成果をあげているイギリスを訪問し、触法精神障害者に対するイギリス社会の考え方の変遷を知るための資料収集を行った。この議論の結果導き出されたマクノートン・ルールは、精神障害者の責任能力に関する基本的原理として、現在でも用いられている。その社会的な議論に関して多くの資料を収集できたので、来年度に向けてそれを分析する段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
指定入院医療機関を退院した触法精神障害者は家庭での受入れが難しく、民間の施設がその役割を担うことが多い。民間の施設においては、マンパワー不足や精神保健福祉専門職の不足から受け入れに際しての負担が大きい。触法精神障害者がスムースに社会へ復帰するためには、専門職を配置した中間的な施設の存在が必要であると考えるが、このような民間の施設に頼っている現状がある。触法精神障害者の社会復帰を推進するには、このような中間型の施設を充実させる必要がある。民間に頼るには限界があり、指定入院医療機関のように公的な資金の投入が必要であると思われる。このことを実証するために、今年度は触法精神障害者の社会復帰に協力している民間施設の実態を明らかにし、中間型施設の必要性の根拠となる資料を収集する予定である。中間型施設の充実には行政の協力が不可欠であるので、現場の声を国や地方公共団体に伝えられるような資料を作成する予定である。 同時に、さいがた病院における聞き取り調査やイギリスにて収集した資料を総合的に検討する予定である。伝統や文化、宗教的な背景、さらに福祉に対する国民や政府の考え方が英国とわが国では違いも多く、わが国の文化に適合したわが国独自の精神保健福祉を検討する予定である。 触法精神障害者の社会復帰を支援することは、精神障害者が触法行為を行わなくてもすむような地域福祉社会を構築することである。今後は、精神障害者を抵抗なく受け入れることができる地域福祉社会のあり方について、具体的な提案ができるよう研究を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
触法精神障害者の社会復帰を考えるには、彼らの生活の場である家庭あるいは施設を前提として考えなければならないことが、これまでの研究成果より明らかになった。指定入院医療機関を退院した触法精神障害者は家庭での受入れが難しく、民間の施設がその役割を担うことが多い。民間の施設においては、マンパワー不足や専門知識不足から受け入れに際しての負担が大きい。触法精神障害者がスムースに社会へ復帰するためには、専門職を配置した中間的な施設の存在が必要である。このような中間型の施設を運営するには指定入院医療機関のように公的な資金の投入が必要である。このような中間型施設を充実させるには、現場の声を国や地方公共団体に伝える必要がある。今年度はさいがた病院における聞き取り調査やイギリスにて収集した資料を総合的に検討するとともに、触法精神障害者の社会復帰に協力している民間施設の実態を明らかにし、中間型施設の必要性の根拠となる資料を収集する予定である。次年度の研究活動の中心は、さいがた病院が触法精神障害者の受け入れを依頼している民間施設における実態調査となる。 同時に、イギリスにて収集した資料を総合的に検討し、伝統や文化、宗教的な背景、さらに福祉に対する国民や政府の考え方が異なる英国との違いを認識しつつ、わが国の精神保健福祉をよりよくする道を考え、まとめる予定である。
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