前年度までの進捗状況や推進方向に即して、リッチモンドがケースワークを大成した著書『社会的診断』(1917年)の再検討の成果を論文発表した。ここに、ケースワークの視点や手順の含意を深く読みこみ、人間個々と社会環境の間を調整するソーシャルワーク全般の有用性と可能性を確認することができた。1次資料として『社会的診断』の草稿のほか講演や講義の内容は、早い時期からケースワークの視点や手順の洗練と確立がリッチモンドの関心であったことを示す。また、このことは『貧困者に対する友愛訪問』(1899年)と『現代社会における善き隣人』(1907年)といった著書もリッチモンドの構想の線上にあったことを示す。以上をふまえて『社会的診断』をあらためて読みこむと、ケースワークの視点と手順は端的に次のように表現することができる。公助を視野に自助と共助を一体的に個別状況に創り、人間尊重の独自固有の仕方を現代の地域社会に注ぐ。このことが、リッチモンドがケースワークの大成を通じて構想したソーシャルワークのポイントであった。そして、その担い手としてソーシャルワーカーの専門職化がリッチモンドの構想の最終目標であった。この最終目標に関しては、諸般の事情により海外渡航による史料収集が不十分に終わり、期間外の継続課題としたい。 また、最終年度にあたって以上の成果を小冊子2種に集約し、社会福祉士会会員に発送した。1つは、上記したリッチモンドのソーシャルワーク構想のポイントを一般向けに紹介するものである。いま1つは、上記の成果に発し、ソーシャルワーク面接のあり方を一般向けに問うものである。リッチモンドのケースワーク定義で、パーソナリティは社会関係の総和のことであり、人間個々と社会環境の間の調整はこの社会関係の総和を整えなおすことで完結する。ここでは、ソーシャルワーク面接のあり方が関係し、さらなる研究課題としたい。
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