研究課題/領域番号 |
23530746
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研究機関 | 常磐大学 |
研究代表者 |
西田 恵子 常磐大学, コミュニティ振興学部, 准教授 (50464706)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ララ物資 / 社会福祉施設 / 第2次世界大戦 / GHQ / 厚生省 / 日系移民 / CRALOG |
研究概要 |
研究助成を受けて取り組む一年目の平成23年度は資料の収集とララに関わる研究のマトリクスを描くための検討テーマの抽出に力を注いだ。 第一の資料収集は国内で、ララ中央委員会が戦争被害の大きさによって都道府県を分類したランクを参考とし、被害の最も大きいAランクである広島県における資料収集に努めた。まず広島県公文書館、広島市公文書館をまわり探したが、「戦後混乱期は行政そのものの管理運営に困難があるうえ、日常の文書等の保管期間5年、10年を過ぎたものは処分するのが大半である」として収集は叶わなかった。広島県立図書館、広島市立図書館でも「ララ」を掲げた書籍及び冊子等は把握することができなかった。しかしララについて若干の記述がある施設・団体の資料を把握することができた。そこで広島市を中心に昭和20年代に運営されていた児童養護施設等を個別に訪ねることとした。当初予想したとおり、昭和20年代に施設の運営に立ち会った人物は殆ど亡くなっており、存命でも体調が悪く面会が叶わない現地訪問が続いた。戦後の施設の状況に関心がなく受け止めていただけない現施設長は複数いたが、創設者の理念を継承し現在の運営に反映させている施設を把握することもできた。この一連の経過からこのような施設の運営事例は戦後の民間社会福祉事業の意義をとらえる貴重な対象として今後の研究に活かせると確信することができた。また、戦勝国アメリカの市民によるララ以外の救援活動についても把握することができ、ララの意義を検討する際の参考になると判断した。 第二の資料収集先は敗戦国として救援物資を受けたドイツを据えた。まず首都ベルリンで資料収集に臨み、十分な収集には至れていないが、東西冷戦が戦後の生活困難に大きく影響を与えていることが把握され、日本との比較検討に意義をもつことを確信した。 上記を通じて収集した資料は適宜一覧として整理することに努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、第2次世界大戦後、疲弊した日本への支援として送られたララ救援物資の配分と受給の実態について、社会福祉の領域で明らかにするものである。3年で成果を挙げたいと考える目標は次の4つである。i) 戦後社会福祉施設の困窮状況とララ救援物資による社会福祉施設及び施設利用者の支援の実態の把握、併せて戦後社会福祉施設の運営管理の方法の把握、ii) LARAの活動経過の詳細年表の作成、iii) 救援を受けた他戦災国と日本との差異と共通性の把握、その要因の整理、iv) 戦後混乱期の民間による救援活動と公的セクターとのパートナーシップの実態の把握、である。 一年目に予定していた47都道府県社会福祉協議会を通じた1945年~1965年に設置されていた社会福祉施設のリストと各都道府県社会福祉協議会年史の収集は、いくつか打診したものの事務局体制の変更等により協力を得ることが難しい状況となっていた。これにより効率的な情報収集、資料収集は困難となり、研究作業に影響することとなった。 その一方、収集を進める過程で、昭和20年代の資料が埋もれつつる状況が確証され、早急な収集と保管・保存の必要をとらえる根拠をもつこととなった。 収集した資料の範囲でも、戦後社会福祉施設は非常に厳しい状況に置かれており、日々、施設利用者の衣食住は困窮に晒されていたこと、そこにララ救援物資は貴重であったこと、ララ救援物資の活用には工夫がはかられたことなどが把握できた。 なお、LARA及びララ救援物資の意義は様々な検討テーマから分析することが可能であることが考察された。たとえば、「占領政策と救援物資」、「アメリカ国に対する国民感情」、「アメリカのソーシャルワークの伝播」、「寄付のマネジメント」、「キリスト教の普及と社会福祉事業」、「日系移民のコミュニティとたすけあい活動」、「施設における日用生活品の変化」である。
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今後の研究の推進方策 |
一年目の進捗状況がやや遅れていることを意識し、二年目はより計画的に研究を進める。 まずは本研究の基幹である「戦後社会福祉施設の困窮状況とララ救援物資による社会福祉施設及び施設利用者の支援の実態の把握」を引き続き進める。一年目は広島県を中心に実態把握に努めたが、ひとつの県を集中して把握することによって、当該地域の戦争被害の状況と住民及び施設利用者等の困窮状況を連動させて効率的に検討することが可能になることを体得したので、その方法を採っていく。 国内における資料収集・情報収集は、ララ中央委員会が戦争被害の大きさで4つに区分した中で最も被害が大きいとしたAランクの都府県を軸にするとともに、インタビューの件数を増やすことに努める。各都府県では公文書館、図書館、博物館等を訪問するとともに、昭和20年代に運営されていた社会福祉施設や団体を訪問する。国外ではアメリカ、ドイツ、韓国を資料収集・情報収集先として設定しているが、本年は海外から救援を受けていたドイツと韓国に力点をおいて取り組む予定である。収集した資料は、一覧表を作成して整理するとともに、所要の箇所をスキャナーを用いて電子媒体に変換して保管する。 また、上記を通じて戦後社会福祉施設の運営管理の方法を事例として把握するとともに、「LARAの活動経過の詳細年表」の作成に着手する なお、分析のテーマ設定が総花的にならないよう配慮しながらも、LARA及びララ救援物資に関わる研究が少ない状況を鑑みて、LARA及びララ救援物資をひとつの焦点とした研究のマトリクスを描くことを目指す。そのために社会福祉領域を中心に据えつつ、戦後の様々な政策動向や民間活動の動向を把握し考察することに努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年3月27日から4月2日までの研究出張にかかる旅費等は、3月31日の時点でのデータには反映されていないが支出処理はすんでいる。残金については平成24年度の物品費、旅費、人件費・謝金、その他で、平成23年度に準じた内容で使用する予定である。 平成24年度には、物品として、戦後混乱期の国民生活や政策動向、社会福祉に関わる書籍の購入、収集した資料を保管する収納用家具の購入、サイドワゴンの購入を計画している。消耗品として適宜、紙ファイルやクリヤーファイル等を購入することも計画している。 旅費としては、国内での資料収集・情報収集に長崎県、兵庫県、大阪府、神奈川県、東京都へ、外国での資料収集・情報収集にドイツ、韓国へ行くことを計画しており、その際に使用する予定である。 人件費は、収集した資料の整理や電子媒体に変換しての保存作業にアルバイト雇用を行う計画である。また、ドイツと韓国を訪問した際、適宜、通訳を雇用する計画である。 その他としては、帰国してからドイツ語と韓国語の資料の翻訳を委託する計画をもっている。また。適宜、資料の送付や依頼文書を送付する際等に使用する切手の購入を計画している。
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