研究課題/領域番号 |
23530746
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研究機関 | 常磐大学 |
研究代表者 |
西田 恵子 常磐大学, コミュニティ振興学部, 准教授 (50464706)
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キーワード | ララ物資 / 社会福祉施設 / 第2次世界大戦 / GHQ / 厚生省 / 孤児 / CRALOG |
研究概要 |
二年目となる平成24年度は、引き続き資料の収集に力を注ぐとともに、収集資料の整理と、一部資料の読み解きに力を注いだ。 国内の資料収集は、LARA中央委員会が戦争被害の大きさによってグループ分けした中で最も被害が大きいとするAランクの都道府県のうち、神奈川、兵庫、広島、福岡、長崎で行った。時間的制約の中、十分な収集を遂げることはできていないが、①地方・地域による特徴の把握、②原資料の閲覧を成果としてあげることができる。①の地方・地域による特徴については、広島、長崎という原子爆弾投下地における戦災者への海外からの救援活動の広がり、兵庫におけるキリスト教を背景とした戦災孤児の支援と社会福祉施設の広がり、引揚港のあった福岡にみる生活困窮者の増大など、今後の検討素材を抽出することができた。また、複数の地域を踏査し、図書館・公文書館等をまわることにより、自治体によって地域史に占める社会福祉領域の記述の多寡、差異を把握することができた。このことは本研究課題とは別に日本における社会福祉の地方自治の差異、格差の歴史的形成という新たな研究課題の設定につながると考える。②については、小田原市で戦前から保育園を運営していた社会福祉法人が多くの資料を市立図書館に寄贈していることがわかり、当該法人理事長の紹介を受けて閲覧することができた。さらに昭和20年代の保育日誌をすべて複写させていただき、電子文字に読み起こす作業を進めている。 国外の資料収集は敗戦国であるドイツで行った。東西に分断されていた時期に西ドイツの首都であったボンを中心に資料収集に臨んだが、予想外に戦後混乱期の困窮を伝える情報は少なかった。むしろ昨年訪問した旧東ドイツのベルリンの方が関連情報を多く備えていることがわかった。なおアメリカの民間団体の支援としてCRALOGではなくCAREばかりが紹介されており検討課題になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、第2次世界大戦後、疲弊した日本への支援として送られたララ救援物資の配分と受給の実態について、社会福祉の領域で明らかにするものである。3年で成果を挙げたいと考える目標は次の4つである。i)戦後社会福祉施設の困窮状況とララ救援物資による社会福祉施設及び施設利用者の支援の実態の把握、併せて戦後社会福祉施設の運営管理の方法の把握、ii)LARAの活動経過の詳細年表の作成、iii)救援を受けた他戦災国と日本との差異と共通性の把握、その要因の整理、iv)戦後混乱期の民間による救援活動と公的セクターとのパートナーシップの実態の把握、である。 二年目は、一年目の成果を基に資料の収集とインタビューを継続することとなっていた。インタビュー件数は多くはないが、大正生まれの二人の社会福祉法人理事長に面会しインタビューすることができ、目標iの一端を達成することができた。一施設であるが、戦後混乱期、昭和20年代の文書の複写を行うこともできた。その他の訪問施設では、当時を直接知る人物からの聴き取りや原資料を入手することはできなかったが、記念誌等を借り受けて関連情報を入手することができた。 資料の複写や電子文字化は予想以上に時間がかかり、研究の進行が遅れているひとつの原因である。また、研究者が予定していなかった日本福祉教育ボランティア学習学会の全国大会実行委員会の事務局長を務めることとなり研究時間をとれない時期が数カ月続いたことも遅れた原因のひとつである。 なお資料収集の過程で、訪問を実質的に拒否された児童養護施設もあり、全国域での資料収集は日常的に関わりのない相手との関係づくりをいかに行うかが重要であると実感している。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗状況が遅れていることを意識し、研究の最終年度にあたる三年目は研究の目的に照らして進行管理を徹底する。 二年目までは4つの研究の目的のうちi)にしか達成を見ることができないが、残りのii)、iii)、iv)の3つはいずれもi)なくしてはできないものであり、i)の量と質が大きく影響する。そのことを念頭におき、i)をさらに継続しながら、並行してii)、iii)、iv)を順次行う。 なお、分析のテーマ設定は、資料や情報の収集量が増えるにつれて、より多様に考えられ得ることが明らかになっている。そのこととともに、社会福祉領域を越えた政治・経済・文化・社会というマクロシステムからの検討や、移民政策、軍事政策、宗教活動等との関わりの検討にひかれる傾向があることに留意し、まずは目的を適えることを優先して研究の範囲を禁欲的にすることに努める。 戦後混乱期のアジアの国であり、LARAの対象国であった韓国での資料収集及び情報収集は、日本と韓国間の国土や戦争等をめぐる問題が従前より緊迫している情勢を十分に配慮して進めることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品費は、関係書籍の購入を見込んでいる。 消耗品は、USBメモリ、紙ファイル、クリアファイル等、収集資料及び情報の整理に必要なものの購入に使用する。 旅費は、国内の資料収集とインタビュー訪問等に引き続き使用するとともに、情勢を配慮しながら韓国での資料収集とインタビュー訪問に使用する。 謝金等は、資料整理補助のアルバイト人件費に使う。また、韓国へ行くことが叶った場合に通訳の謝金を支払う。 その他、連絡用の切手やコピー代への使用を見込んでいる。
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