研究課題/領域番号 |
23530765
|
研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
木村 真理子 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (00266462)
|
キーワード | 国際情報交換 / 精神障害リハビリテーション / リカバリー / 当事者の関与 / 当事者によるサービス運営 / 精神障害当事者の役割 / 専門職の役割 / ソーシャルワークの役割 |
研究概要 |
平成24年度の研究実施概要は、1)継続的研究のレビュー、2)研究会の実施、3)メインストリームの精神保健サービスにおける当事者関与活動に関する国際比較研究と動向予測に関する発表、および4)外国と国内での参与観察と聞き取り調査。 精神保健サービス利用者の新たな役割に着眼した研究(例えばCampbell, 2009; Davidson, 2006; Burns, 2010)の言及点は以下のとおりである。1.コンシューマーの関与は、当事者の回復(リカバリー)を意識し、リカバリー指向のサービスや支援を推進するうえで有益な役割を果たしうる。2.エビデンスが精神保健サービス予算に反映される現在の精神保健サービスにおいては当事者によるもしくは当事者主体のサービス運営(CRS: Consumer-run service)は、専門職が大半を占める伝統的サービスに比して限定的な事例に限られている現状がある。3.当事者による支援活動の試み、例えばWRAP(ラップ:当事者によるリカバリー指向の健康行動プログラム)は、アメリカ合衆国精神保健局(SAMHSA)も着目し活動促進を支援している。以上の動向から、コンシューマーによる関与はリカバリー指向のサービスの動向を強化する方向に位置づけられているといえよう。 また、木村(2012発表)のACTに関する国際研究発表から以下の知見が得られた。ACTモデル(日本語訳は「包括的地域生活支援」)が誕生して以来、4半世紀以上が経過した。フィデリティ準拠枠の確定とこれをもとにした成果評価から、プログラムの有効性が示される一方、今後のモデルの課題はリカバリー指向と当事者の関与が鍵であるとの言及がされている(例えばBurnsら, 2010)。以上からも、リカバリー指向の精神保健サービスの課題は当事者の関与がその鍵を握っているといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年の科研費による研究開始時の研究計画書に記載された2012年(平成24年)以降の研究計画を確認した。研究2年次以降の研究計画として、いくつかの当事者活動の聞き取り実施が記されている。今年度筆者が実施したニューヨークでの研究調査および「べてぶくろ」の研究調査はリカバリー指向の当事者サービスの在り方の特徴を明確にしている。調査における内容の特徴は次のとおりである。1)サブコミュニティに焦点を絞ったアートやビジネスの活動、2)これらの事業が当事者自らの意向や発案で始められている点、3)従来の職業リハビリテーションモデルとは異なり、リカバリーを意識し、当事者自らのし好を取り入れている、4)ほかの当事者に対するロールモデルを提示している、などがあげられる。 今年度の研究は達成度70%程度と思われる。研究データの収集方法や収集場所としての適切性は、計画書作成時よりもすぐれかつ刷新的な場所やデータソースが獲得できたといえる。一方、データ収集方法やデータ分析は今回は参与観察を主体とした構成となっている。今後は先行研究にみられる理論と合わせて、参与観察で得た空気感(場所や登場人物らの雰囲気)や採取したことばなどをどのように再構成して新たな枠組みを構築するかが検討課題とされる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究達成度について上記でふれたとおり、2012年度には研究データの収集方法や収集場所としての適切性は、計画書よりもすぐれた場所やデータソースが獲得できたといえる。一方、データ収集方法やデータ分析には参与観察のデータを主体とした研究方法を採用した。今後は先行研究にある理論と合わせて、参与観察で得た空気感(場所や登場人物らの雰囲気)や採取したことばなどをどのように再構成して新たな枠組みを構築するかが検討課題とされる。 今後の計画については、国外調査研究と国内調査研究の研究結果を分析比較することがあげられる。どのような場でどのような研究スタイルの成果報告を行うかは、自らの専門職と専門職の価値、精神保健政策の動向をふまえてふさわしい場所を検討してゆきたい。すでに2013年6月の精神保健福祉学会でのシンポジウムでの発題を行う役割を求められているため、これまでの研究成果をふまえて、発表の機会として用いる予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
海外調査研究旅費:50万円 消耗品費:50万円 報告書作成費:10万円 専門知識の提供費:10万円
|