小規模自治体の介護・福祉運営について理解するために、自治体が独自に取り組む高齢者居住型施設の運営すなわち「生活支援ハウス運営事業」に焦点を当て、長野県の30自治体41施設を調査してきた。本年度明らかになったことは以下である。 設置をめぐる国の政策的意図と自治体の設置判断との関係から、自治体は、その地域に固有のニーズによる施設整備を進めており、必ずしも国の示した政策意図に添わない設置意図をもっていたことが明らかになった。国が全国を対象とする一般的な政策意図によって制度を運営するのに対して、生活支援ハウスのような個別性の高い施策は、自治体特有の政策判断が働いていた。 また生活支援ハウスの設置目的と実際の機能から、各自治体は、施設運営を通して高齢者のニーズに応えようと試みており、①地理的自然環境要因によるニーズに応える居住機能、②低所得者に配慮した居住機能、③虚弱者への生活支援機能と介護支援機能、④災害や虐待からの緊急保護機能、⑤家族の代替機能、を備えていたことが明らかになった。特に、居住機能は制度開始から一貫して過疎地域のニーズに応え、実際の生活支援機能や介護支援機能は、高齢化の進行とともに拡大していた。合わせて、応能負担による利用のため低所得高齢者へ特別に配慮していた。一方、保護機能や代替機能は国の要綱にもなく当初は重要視されていなかったが、新たなニーズに対応し、自治体にとっては潜在的機能でもあり残余的な福祉機能であった。 これらは、自治体独自の裁量に基づく施策の機能であり、過疎高齢化する小規模自治体の介護・福祉運営に期待されるものである。 少数であるが他県の調査も実施したところ、居住機能については概ね長野県と同傾向にあった。今後の課題は、長野県小規模自治体の継続調査に加え他県調査を拡大し、これらの機能の一般化を試みることである。
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