当該年度は、ニュージーランド(=NZ)のHART Act 2004 により設置されているAdvisory Committee on Assisted Reproductive TechnologyやThe Ethics Committee on Assisted Reproductive Technology に関する調査・研究を実施した。NZの「子どもの出自を知る権利」システムは、ドナーのあらゆる情報を知る権利を認めている。その論拠は、①情報は管理でき、情報の提供もシステム化できる。②ドナーが子どもに会うか会わないかは意思の問題であり、意思は尊重される。つまり、法的な親としての権利はないが、生物学的な親としての責任をドナーに負わせている。さらに法成立以前の生殖補助医療(=ART)の実施についても、ドナーや関係者に情報を開示するよう努めることを法が求め、システム化している。NZでは「子どもが生まれてくること」を「子どもの最善・最高の利益」と位置づけ、社会的合意をなし、法的権利のもとでシステムを構築している。 NZのようにARTが「開かれた医療」として社会化されるならば、第三者生殖に関わるすべての当事者のwell-beingが成立する要件が、社会的に充足されるだろう。したがって、本研究の結論は、第三者が関わる生殖医療が、「開かれた医療+公益性の保持=共通善が保持された、寛容な社会の協創」というロジックのもとで実施されれば、ARTで生まれてくる子どもの福祉が実現するというものである。 今後の課題は、理論的な精緻化、上記のロジックがNZをはじめ、生殖に関するグローバル・ツーリズムの影響を受ける諸外国の実情や政策ロジックと、如何なる関係・位置になるのか、国際比較研究として重層化させていくことである。
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