研究課題/領域番号 |
23530778
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
大谷 京子 日本福祉大学, 社会福祉学部, 准教授 (90434612)
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研究分担者 |
吉田 みゆき 同朋大学, 社会福祉学部, 准教授 (70445930)
寺澤 法弘 日本福祉大学, 社会福祉学部, 助教 (80548636)
田中 和彦 日本福祉大学, 福祉経営学部, 助教 (10440801)
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キーワード | 精神保健福祉士 / 研修プログラム開発 / アセスメント / ソーシャルワークスキル / PSW |
研究概要 |
1.ベテランPSWのアセスメントの特徴を抽出した。 多様な所属機関に属する、経験年数が20年以上のPSW2名を調査協力者として、アセスメントプロセスにおいて、どのような思考プロセスをたどるかを調査した。昨年度の調査で浮き彫りになった初任者PSWのアセスメントは、全般的項目を網羅した質問へのクライエントからの回答がそのまま用いられ、文脈やその事実の背景が理解できないものだったが、ベテランPSWは、同様に多様な質問をする中で、項目間の関連を考察し、仮説を立てながら問を発信していることが明らかになった。その仮説と検証の繰り返しが、情報収集と共に行われていることが示された。また、短時間の面接の中で、クライエントの経験をストーリーとしてとらえられていることが示された。 2.アセスメントプロセスの理論研究を実施した。先行研究レビューを行い、アセスメントプロセスがソーシャルワークプロセスのどの段階においても継続して行われていることと、プロセスとしてのアセスメントと成果物としてのアセスメントが混同して使われていることを示した。従来のインテーク→情報収集→アセスメント→計画→実施→評価→終結という流れでは、省察的実践として常に継続して行われているアセスメントプロセスを正確に伝えることはできないことを提示した。その上で、ソーシャルワーカーに求められる態度とスキルを提言した。 3.アセスメントプロセス遂行のためのスキルアップ研修を3回試行した。経験年数にかかわらず、クライエントとの協働作業であるアセスメントプロセスへの理解と取り組み、ストレングス視点の保持などに課題が残ることが分かった。さらに、情報収集の鍵になる面接技術の向上も必須であり、研修で取り上げる必要があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、所属や経験年数別の達成課題の明確化と、そうした属性別の研修プログラムの開発が終了しているところだが、アセスメントプロセスの解明に困難を極めている。アセスメントのための情報収集をクライエントとの面接に絞っているが、面接中にPSWの頭の中で相当の分析が行われており、経験知やカンも含めて即興で判断し問いを発し、回答をさらに分析して仮説を組み立てている。その1問1答について、ロールプレイを録画し分析する質的調査を行っているが、どの要素がソーシャルワークの専門的スキルによるものか、どの知識が情報分析のどこに用いられるのか、全容がつかめずにいる。 しかし、先行研究からはアセスメントプロセスにおいて求められる全般的ソーシャルワーカーの態度とスキルは抽出されたので、2013年度にはアセスメントプロセス評価指標を開発するための量的調査を実施する予定である。この指標があれば、研修プログラムの開発のために、効果測定が同時にできると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
①研修プログラムの試行と改良を中心に行う。今までの質的調査で明らかになった、初任者が陥りやすいポイントと、ベテランPSWの情報分析方法のありかたなどの解説→実際にロールプレイで体験→クライエント役からのフィードバックと評価指標によるふりかえりという流れの研修プログラムを開発する。その上で、5年未満の現任PSWを対象に研修プログラムを試行する。ここでは、本人のスキルアップの確認と共に、研修プログラムに対するフィードバックも受ける。これらを踏まえて、プログラムの修正をして、再度、他の調査協力者を対象に研修を実施する。ここでもプログラムに対するフィードバックを受け、完成版のプログラムを作成する。次年度にこの研修プログラムを冊子にして、普及させる予定なので、このプログラム開発については、試行→修正→試行→修正→完成のプロセスを全て記録しておく。 ②遅れている評価指標開発を行う。和歌山県と愛知県の精神保健福祉士協会の協力を得て、量的調査を実施する。その上で、研修参加者の協力を得て、研修の前後にスキルの変化が可視化できるように改良する。先行研究と、質的調査を踏まえて、アセスメントプロセスに求められるソーシャルワーカーの態度とスキルのinventoryは蓄積されてきているので、それらを基に項目群を作成し、項目反応理論で個別の因子に対する回答者の能力値が測定できるものにする。 以上の成果について、2つの学会発表と3本の論文投稿を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
所属・経験年数別達成課題の明確化と研修プログラム開発を昨年度までの計画としていたが、ソーシャルワークプロセスにおける中核としてアセスメントを取り上げたため、そのアセスメントに必要なスキルの抽出と達成課題の明確化に難航した。そのため、ベテランPSWを調査協力者とした面接場面再現調査の実施が遅れ、予定していた経費が使用できなかった。 しかし先行研究レビューを十分に行ったため、今年度は、評価指標開発とベテランPSWへの探索的調査、研修プログラムの試行と改良を同時並行で行える予定である。指標開発のための量的調査に使う調査票印刷費、調査票郵送費、報告書印刷費、報告書郵送費が大きな支出となる。 研修プログラムの試行と修正について、調査協力者への謝礼と研修風景の記録起こしのための委託費を使用する。 引き続きベテランのロールプレイを録画して、アセスメントプロセス遂行のためのスキルを抽出するため、「専門的知識の提供」にかかる費用、インタビューデータの逐語記録化のための委託費が必要である。成果発表のための旅費等に使用する予定である。
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