研究課題/領域番号 |
23530779
|
研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
岡 多枝子 日本福祉大学, 社会福祉学部, 准教授 (30513577)
|
キーワード | 福祉系高校 / 職業的レリバンス / 教育的レリバンス |
研究概要 |
福祉系高校のレリバンスに関するマクロ・メゾ・ミクロ各レベルにおける研究実績の概要は以下のとおりである。1.マクロレベルにおいては,生徒の6割以上が卒業時に2つのタイプ(福祉就職+福祉進学)を選択しており,福祉系高校の創設時に国が企図した福祉専門職養成に関する成果が示された。また,この割合は国の調査と一致することでデータの裏づけを得た。2.メゾレベルのレリバンスは,資格校では資格取得を目指して能動的で反省的な実習を行い,福祉就職する者の割合が高く,教養校では福祉の勉強を入学動機に広く福祉を学び,福祉進学する者の割合が高い結果が示された。3.教員は福祉教育成果の意義を評価して普通教育への拡大が必要だとする反面,生徒の支援に苦慮する現状もみられ,福祉教育を原点から問い直す時期に来ている。4.ミクロレベルのレリバンスは,生徒の8割以上が福祉に対する明確な入学動機を持ち,実習を含む学びを通して目的を達成し,9割以上が肯定的な評価をしている。5.ミクロレベルのレリバンスは,「職業的レリバンス及び教育的レリバンス」による「レリバンスの達成」と,「レリバンスの未達成」から構築され,生徒の入学動機や実習経験,進路選択タイプなどによって複雑で多様な要素が見出された。6.以上のことから,マクロ,メゾ,ミクロの各レベルにおいて多元的なレリバンスが認められるとともに,各レベルにおいて取り組むべき課題も明らかにされた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
福祉系高校のレリバンスをKJ法によって質的研究を行い、職業的レリバンスと教育的レリバンスを見出すことができたことは、研究目的の達成度に照らして意義があると評価する。具体的な内容は以下の通りである。 1.メゾレベルにおける福祉系高校のレリバンスとして、資格校では,「福祉の資格」,「周囲の勧め」,「普通科が嫌」を入学動機とする割合が高く,介護福祉士国家資格を取得する目的などが明確であった。教養校では,「福祉の勉強」を動機とする割合が高く,大学などへの進学を前提に福祉を学ぶ者が多い。実習では,資格校は3年での実習不安感の減少と感動的体験の増加が特徴であった。今後、資格校は専門教育を行う条件を整備し,教養校は幅広い福祉教育と普通教育を柔軟に組み込むなど,高校の特性に合わせた教育課程の編成が重要である。 2.ミクロレベルにおける生徒のレリバンスでは,福祉の「学び,資格,進路」という「福祉目的型」の生徒が81.0%を占めており,卒業まで福祉系進路選択を維持する割合が高いことが示された。また、「福祉志向・能動」因子と「現実直面・反省」因子を抽出し,能動性が高い者は入学時が一般系進路希望であっても卒業時は福祉系進路に変更している。しかし能動性が低い者は入学時に福祉系進路希望であっても卒業時に一般系進路を選択していた。一方、福祉就職希望者は入学時から低下するが3年実習から増加に転じて卒業時は34.5%であり,福祉進学希望者は入学時から横ばい傾向で推移して卒業時は31.0%である。福祉就職と福祉進学を合わせると,卒業時に65.5%が福祉系進路を選択していることが明らかになった。 以上の研究成果を得ることができた反面、他の調査や海外フィールド調査に関しては、現在、先方との調整段階であり今後の課題となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策の柱は以下の通りである。 1.福祉系高校生への質問紙調査に関して、全国福祉高等学校長会から予想以上の理解と協力をいただくことができた。当初予定していたのは4,000名の調査(研究代表者が平成18年度に実施した調査と同規模)であったが、普通科及び総合学科や福祉科以外の専門学科の生徒に対する調査を含めて約20,000名の調査票の返送をいただくことができた。先行研究などにおいても2万名規模の高校生に対する学科比較調査はほとんど報告されておらず、本調査の研究的意義は大きいので、当初の調査計画を見直して本調査を中心に取り組むこととする。 2.本研究を遂行するにあたっては、研究代表者の所属する日本福祉大学と実行委員会が主催する福祉教育研究フォーラムの企画・運営を、福祉系高校教員との研究交流事業と位置づけて進めてきた。その中で、福祉系高校教員から、「介護福祉士を養成しない『教養として幅広く福祉教育を学ぶ高校生』の使用するテキストが欲しい」との要望が出された。専門としての福祉教育は学習指導要領に基づく教科書などが出版されているが、前記の教養としての福祉教育の教材は不足している現状である。そこで、教材開発として、福祉教育テキスト「Welfare-社会福祉」の作成を行う。 3.福祉系高校卒業生・福祉系大学卒業生及び福祉系高校教員への面接調査に関して具体化を進めるとともに、東日本被災者や薬害被害者など新たに生み出された社会的弱者への福祉的支援や、陶芸療法やレクリェーション、地域のサロン活動、国際福祉など、福祉教育の枠組みを広げる実証的研究と、当事者参画型のフォーラムを開催する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の主な研究費使用計画は以下の通りである。 1.福祉系高校から得られた約2万枚のアンケート調査に関する量的及び質的研究を行う。特に、福祉を学ぶ高校生と普通科などの生徒との比較に着目し、昨年度の知見(KJ法による全体図解を含む)との比較を行う。従って、アンケートデータ分析の人件費や専門的知識の提供に関する謝金が必要である。 2.教養として広く福祉を学ぶ普通科高校生などを対象とした福祉教育テキスト「Welfare-社会福祉」の完成と、高校現場で高校生がテキストとタブレット端末などの電子機器を活用することや、教職志望の大学生による出前授業を行うなど、より効果的な指導法の実証的検討を行う。従って、参考図書購入費や印刷製本費、情報機器の購入費用が必要である。 3.教材開発として、東日本被災者や薬害被害者などに対する福祉的支援のあり方や、高大連携の地域福祉活動に関する実証的研究を推進する為に、社会的弱者を対象とした調査に要する旅費や謝金、教材化する印刷製本費が必要である。 4.東南アジア、オーストラリアなど、従前の福祉教育教科書には記載が少ない地域に対するフィールドワークによって、日本の福祉教育の可能性を展望する。特に、オーストラリアでは高大接続教育におけるデュアルクレジットなどの情報を幅広く収集する。従って、海外渡航の旅費や現地でのコンサルタントに対する謝金、記録用のカメラなどの費用が必要である。
|