本研究は、東アジア地域全体が著しく高い自殺率を示していることに着目し、高齢者自殺を死に関わる東アジアの社会文化問題としてとらえ、子女に対する過度の出費、自立しない成人子女の問題などは高齢者の自殺リスクを高める要因であることを証明するための研究である。「親から独立しない大規模の成人子女」の問題、すなわち中国のコウ老族、日本のパラサイトシングル、韓国の白手(ベクス)の問題を若者失業問題としてだけでなく、高齢者自殺のリスクを高める要因としてとらえた。また、高齢者自殺に対する仏教の態度を、仏教経典の内容分析を通じて明らかにし、仏教は自殺を禁止していない、という見解を批判的に検討し、仏教本来の教えに基づいた自殺観を提示し、それを現代的に解釈した。 中国における高齢者貧困問題については、WHOの設立した北京心理危機予防センター(自殺予防センター)を2回訪問し、専門家との聞き取り調査とともに自殺関連調査資料を収集した。また、中国社会科学院人口労働経済研究所と日本研究所の高齢者福祉専門家に対する面談等を通じて高齢者生活に関する事実確認や情報・意見交換、資料収集を行い解読した。韓国については、高齢者自殺問題に対する自治体独自の対策を実施している釜山市を訪問し、具体的な実施状況を調査した。また、自殺予防に大きな効果をもたらしたとされる住民自治活動の事例として、釜山市影島の「幸せの村」を訪問し、住民による自殺予防活動の実態を調査した。 研究成果は2011年9月『中国社会科学院論文集』、2013年6月『韓国教授仏者連合学会誌』第19巻第1号、2013年12月『日本仏教社会福祉学会年報』第44号、2013年12月『社会政策研究』第5巻第2号に掲載し、そして韓国(2013年)と日本(2012年)で単行本として発刊されている。 また、2013年4月から3回にわたって佛教大学四条センターで市民講座を行い、研究成果を市民に発信した。
|