研究課題/領域番号 |
23530796
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研究機関 | 吉備国際大学 |
研究代表者 |
横山 奈緒枝 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (90319989)
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研究分担者 |
石川 秀也 北海道医療大学, 看護福祉学部, 教授 (90364265)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 高齢者虐待・障害者虐待 / 社会福祉士 / ネットワーク / 超高齢山間地区 / 多職種間連携・協働 / 専門職チーム / 地域包括支援センター / 地域包括ケア会議 |
研究概要 |
初年度の研究の進展は、1.岡山県内一高齢化率の高い高梁市での実践的活動、2.専門職への調査実施に分けられる。1.(1)地元メンバーは延5回の研究会を実施。超高齢山間地域の課題を提起し合い、虐待に関わる法や対応策等の議論を深めた。(2)地域包括ケア会議において本研究を研究的アプローチとして明確に位置づけ、この会議で研究進捗状況と関わる知見をA4版2~4枚程度にし、説明(7回)。(3)うち1回、共同研究者を講師(施設内虐待について-全国高齢者施設調査から-)とし、質疑応答を通して研究的観点を共有。(1)~(3)を通して「目的1:事案への対応や経緯の把握」、「目的2:社会福祉士の対応策や介入方法を探ること」を進めた。山間地域の事案特性の把握のため、地域特性シート(地域包括支援センター平成20年作成)を再整理し、小地域ケア会議(14地区)へ降ろし、各地の地域診断へ活かした(実施継続)。2.質問紙調査:事案に関与する実践者、介護職等の104名(配付177名:回収率58.8%)、聞き取り調査(半構造化面接):虐待等に対応する法律職、社会福祉士等35名。これらを通して「虐待業務や対応実態と求められる社会福祉士の役割と連携の手だて」(目的3)を検討。調査票作成のため、社会福祉士養成や権利擁護に関する文献レビューによる、対応や考え方等の整理を行った。職種を超えた共通対応と専門性が組み込まれた業務分類を試みた。本県は多職種ネットワークの充実により、複数後見による受任も多い。本研究の分析を今後の権利擁護に関わる多職種間協働に活かす意義があると考える。一部の結果は倉敷市権利擁護あり方検討会(平成23年10月~平成24年3月)で議論に活用し報告書作成も行われた。多職種ネットワークの場:岡山高齢者・障害者ネットワーク懇談会(偶数月開催)、高齢者虐待対応専門職チーム会議(奇数月開催)でも紹介し多職種の意識啓発に活かした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初に掲げた目的1~3までは進めることができたが、初年度後半に入り、倉敷市が設置した「倉敷市権利擁護あり方検討会」への委員要請により、倉敷市の権利擁護に関わる実態と検討に沿った報告書作成も必要となり、本研究により実施した調査結果の当地区データのみを抽出し、限定した分析にも多くの時間を費やすこととなった。この倉敷市については、検討会の設置とともに、本調査を実施する協力者として独立型社会福祉士3名、社会福祉協議会職員1名が参加することとなり、新たなネットワークの形成が実現できた。その一方で、これらのメンバーによる調査前の調査方法に関わる検討や、調査実施後のデータ検討等が不可欠となり、その調整や分析、検討に時間を必要とした。 結果的に、聞き取り調査は当初予定していたよりも多く35名に実施することができた。それは、前述したような調査の実施協力者の存在と、県下で専門職の集うネットワークの場が既にあり、この場を活用し、調査依頼したことにより、調査への協力者を多く募ることができたことによる。聞き取り調査の実施や、調査後の膨大なデータのテープ起こしを実施するための時間も多く必要となった。 調査結果については、社会福祉職と他職種との比較的観点から、対応のフローチャートや図式化を予定していたが、調査対象者が拡充したことにより、内容も広範となり、それらの検討までは至ることができず、2年目に継続的に検討を進めることとなった。 このように、当初の研究計画の予定からは遅れた状態と評価するが、その理由は調査への協力が充分に得られたことにより調査活動が濃密になったこと、また、協力者等による検討を随時進めることができたことによると考えられる。今後もこれらの研究や調査への協力者、多職種のネットワークを巻き込み、研究テーマに関する議論を深めながら研究を進めていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目には、初年度の調査結果の検討を継続しながら、実際の対応に基づく具体的な業務内容の抽出と、関係職種の連携に関する分析を引き続き行ない、法律家との共通性と社会福祉士の固有性の明確化に取り組む。この場合、当初からの本研究メンバーと、倉敷地区の調査実施を担った協力者、また調査を受け入れてくれた対象者にもつながりを持ち、研究成果や課題を開示の上で検討を重ねていく予定である。 平成23年度に得られた文献レビュー、調査結果、また、前述したような議論を通して、社会福祉士養成における高齢者虐待防止と解決に求められる技能の適切な養成内容と形態(講義、実習的な体験型内容等)を検討し、その実践的技能を高めるための具体的で実用性のある養成手法及び学生へ伝達するポイント等を含むプログラムを試案する(当初からの目的4に該当する)。また、目的5である、試案の部分的実施(3年目に中心的に実施予定)についての構想も設定し、大学組織内での実習教育担当教員等へ提起し検討を開始する。これらの提案に至るまで学会(日本高齢者虐待防止学会、日本社会福祉学会等)等で先行研究を把握し、これらの場での議論を重ねる。 また、平成23年度に成立した障害者虐待防止法が本年10月より施行となる。このことにより、本研究半ばの現在、各自治体としても障害者虐待への対応システム(権利擁護センター)の設置が求められている。本研究では高齢者虐待対応を主眼として研究企画を立ち上げたが、県下のネットワークにおいて対応している高齢者虐待対応専門職チームでも高齢者虐待だけでなく、障害者虐待事案についても積極的に対応していくよう考えており、実態に即した研究として重視することが不可欠と考える。本研究の主眼である社会福祉士の対応実践力に関しても、このシステムの課題は重要であるため、障害者虐待対応に関する内容も含めて検討を深めていくこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費については、旅費に関して一部取り止めるが、その他については当初の予定通りの支出を行う。 物品費:法や取組が動き続けているため、虐待対応や権利擁護に関わる文献、動向に関する文献や、関連資料購入を進め、研究メンバー(高梁地区活動者・地域包括ケア会議メンバー)間での内容の読み込みと理解につなげていく。また引き続き、検討を行うためのデータ整理用ファイル、また関連するネットワークの会議の場において発表していくため、その参加者へ配付する資料用の簡易製本表紙等の物品購入を予定する。 旅費:初年度同様、権利擁護関連の集まりや学会への出席を中心に支出する。旅費に関する変更点は、当初の予定ではドイツにおける権利擁護教育の視察のための渡航費の計上を取り止めることである。初年度に、先行研究や権利擁護に関する学会資料内容を把握した結果、近年では、ドイツに関わる情報が、成年後見法学会員、日本高齢者虐待防止学会員等により日本に導かれてきていることが理解された。このため、ドイツへの渡航費は取り止め、「今後の推進方策」でも述べたように、平成24年10月より施行される障害者虐待防止法関連の最新情報の入手に有意義な学会等への出席のための旅費とすることとする。障害者虐待防止法では、地区において対応するしくみの設置を求めており、岡山県下においても、早急に高齢者と障害者、またはDV等、権利に関わる課題への対応システムの構築が急務である。本研究は社会福祉士の関連する対応実践力に焦点を当てているが、そのシステム課題も深く関わりがあり、障害者虐待も含んだ検討がより有効であるという考えにより、研究費を使用する。 謝金:初年度に実施した調査対象者等へ呼びかけ、全体的な研究経過の公表や検討のため、多職種や社会福祉士養成を行なっている教育者等の集う場を設定するため、会議費や、配付用関係資料の製本印刷に関わる費用も支出する。
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