研究課題/領域番号 |
23530796
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研究機関 | 吉備国際大学 |
研究代表者 |
横山 奈緒枝 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (90319989)
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研究分担者 |
石川 秀也 北海道医療大学, 看護福祉学部, 教授 (90364265)
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キーワード | 高齢者虐待・障害者虐待 / 社会福祉士 / ネットワーク / 超高齢山間地区 / 多職種間連携・協働 / 専門職チーム / 地域包括支援センター / 地域包括ケア会議 |
研究概要 |
今年度の研究実績としては、1.地元高梁市での実践的活動と、研究協力者5名との継続的な検討の実施、2.初年度に実施した調査結果の分析作業、3.分析結果に関する考察の提示、公表活動、の3点に分けられる。各項目の具体的な内容は次の通りである。 1.①地元メンバー6名により延4回の研究会を開催した。初年度の調査結果に関する討議や、社会福祉士養成における教育内容や評価方法、実習システムの実状などに関する意見交換を行なった。②地域包括ケア会議内の事例検討委員会(延4回、更生メンバー21名)において、本研究会を研究的アプローチとして位置付けており、この研究による成果や権利擁護に関する情報を必ず毎回(4回)A4版の表裏1枚に話題として記載し、配布資料を作成し、これを会議内で説明、提起した。 2.初年度実施した虐待対応に関する聞き取り調査と質問紙調査結果から、社会福祉士養成における高齢者虐待防止と解決に求められる技能等を抽出した。また、既存の科目シラバス、養成テキストから養成の中心に据えられている項目を抽出し、上記技能を加味しながら、内容と形態(講義、事例・体験型学習内容等)を検討した。 3.本年度までの研究成果については、岡山県内6市(倉敷市、岡山市、備前市、高梁市、津山市、新見市)での権利擁護や認知症高齢者への支援に関する講演講師、シンポジウムのコーディネーターを担った際に部分的に説明し、活用した。また、日本高齢者虐待防止学会、研究代表者所属先の共同研究報告会において発表した。2市(倉敷市は初年度終了後、一部データを挿入し報告書を作成した。総社市は延8回の討議を実施)における「権利擁護あり方検討会」での委員として、検討過程において部分的に研究成果を公表し、議論に活用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初に掲げた目的の教育プログラムに関する検討、提案までを今年度取り組む内容としていたが、初年時の研究成果の中のとくに聞き取り調査結果が膨大であったことにより、重視される項目が多様に拡がったため、その整理に時間がかかった。分析の結果、(1)技能:「調整、連携に係る能力」「コミュニケーション能力」「判断能力」「情報収集、事実確認能力」「精神疾患などの障害への対応力」、(2)知識:「法・制度理解(権利擁護法、福祉関連法)」「行政を動かすような、説明できるような知識と能力」「サービス活用方法」「施設所在や手続方法」「社会資源の理解」、(3)態度(視点):「伴走できるプロ(としての価値)」「本人のための調整」「虐待を捉える見方」など、柱となる要素は抽出、整理された。また、これらの要素を繋ぐ「関係形成力」についても大きく2つの項目(引き出す、聞き出す、関係性の吟味力)が見いだされた。 これらの項目に沿って、養成におけるディスカッション事例場面の設定や検討における倫理綱領のチェック方法、理解方法などを検討、提案(基盤教材データ)することができた。具体的には、養成課程に求められる教育内容・技能、基本となる価値観等と照らし合わせて、学内の実習担当教員等との打合せも実施し、専門職の基盤となる「倫理綱領」の理解と、その具体的な場面を想定したシチュエーション対応の体得方法(題材と、養成ポイント)、また、専門性の向上のための中核となるスーパービジョン関係の理解と、この対応のためのディスカッション場面と養成ポイントに関わる内容の養成ポイントの試案作成を行なった。 遅れていると考える点は、歴史的な権利侵害事例に基づく、ディスカッションの事例、利益相反に関する事例、成年後見人の死後事務の課題に関わる事例などが未設定であり、一連の流れを構成するまでに至らなかったからである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの研究成果に基づき、その実践的技能を高めるための具体的で実用性のある養成手法および学生へ伝達するポイント等を含むプログラムの提案(一連の流れも定める)に繋げていく予定である。現段階の分析では、法と実生活的事例の関連付けた具体的教育の重要性や、議論のための権利課題の題材・範囲等次の7項目を明確化した。1.権利擁護とエンパワメントを繋げた学び、2.連携と調整のためのメゾレベル理解、3.討議の論点に「権利」の複雑性(利益相反等)の理解の設定、4.歴史的題材による社会における権利の理解、5.情報把握と確認のための伝達力の体得、6.成年後見や虐待対応実践事例の活用、7.「実状に直面し学ぶべき実習」の課題。 具体的には、本年度作成した試案内容の部分的試行により、その内容の再検討を行ない、教育内容の改善も図り、学生の権利擁護に関わる実践力向上への寄与を図っていく。県内他大学の権利擁護に関する教育の実状の把握と、本研究により提起する試案の提起を行ない検討も予定する。 また、これまで講演で本研究成果を伝えた市(岡山市、倉敷市、総社市、高梁市など)より、職員の継続的な権利擁護力養成の依頼が既にあり、引き続き、調査分析結果や考察を活用し、権利擁護の実践力の養成にも活かしていく予定である。とくに、地元高梁市では多職種連携会議の担当でもあり、連携における社会福祉士の役割、発言における人間の理解のあり方などを検討していく。総社市は全国で初めて、児童虐待、高齢者虐待、障害者虐待、犯罪被害者(DV)を含む総合的な「権利擁護センター」の立ち上げを2013年4月に行なっており、センター運営委員として、研究成果を権利擁護案件への実践と結び付け、活かしていく予定である。 学会(日本高齢者虐待学会、日本司法福祉学会など)での研究成果の公表も引き続き実施予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度、社会福祉士の権利擁護実践力養成プログラム全体を立案できなかったため、この立案に伴う諸経費の支出(消耗品費、他大学、関係者との打ち合わせ旅費など)が滞ることとなった。このため、本年度は以下のように支出する。 消耗品:最終年度の総合的な検討のため、集約するファイルなどの物品、授業実施において受講学生、関係者へ配付する資料作成のファイル、用紙などの消耗品の購入を行なう。権利擁護や障害者虐待の防止に関わる文献、資料の購入を引き続き行なう。特に権利擁護センターに関わる資料を整備していく。 旅費:本年度は最終年であるため、多職種で権利擁護に関わっているメンバーや他大学の権利擁護関連科目の担当者などへの幅広い情報の伝達にも努めていくため、旅費を使用する。岡山県内の他大学(川崎医療福祉大学、美作大学など)の権利擁護実践力の教育実状調査と、試案内容に関する協議を実施するため、この調査旅費も新たに必要になる。また、発表と情報交換のための権利擁護関連の学会、研修への参加に必要な旅費を支出する。 その他:最終年であるため、内容の総括となる冊子作成を行なうための印刷代を支出する。また、これまでの調査協力者や、検討の協力者などへ冊子を郵送する切手代(宅配代)も支出する。とくに、岡山県内を網羅し活動している「NPO法人高齢者・障がい者ネットワーク懇談会」は全国的にも唯一と呼ばれる程の多職種連携の活発な組織であり、本研究の主眼である社会福祉士の担うべき権利擁護への期待は高いため、この組織メンバーへの冊子配付も積極的に行なう。冊子作成のためのデータ整備のため、人件費の計上も予定する。
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