研究課題/領域番号 |
23530800
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研究機関 | 北星学園大学短期大学部 |
研究代表者 |
藤原 里佐 北星学園大学短期大学部, その他部局等, 教授 (80341684)
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研究分担者 |
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 講師 (60413415)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 障害児者 / 家族 / 貧困 / 家計 / 経済的支援 / ケア |
研究概要 |
今年度は、障害児とその家族が貧困に陥る要因について、歴史的、学際的に整理をし、次年度以降の調査の基盤を形成した。特に、知的障害者の「家計」が可視化されないことによって、生活困窮の問題が障害者福祉の中でさえ着目されないことを問題視してきたが、障害者の生活形態が多様化する中で、定位家族との同居もしくは施設入所のみならず、ケアホームやグループホームの利用、地域での単身生活を選択することによって、生活費の規模が拡大することや、当事者以外が生活費を管理していることを踏まえて、その実態を把握する必要があることがわかった。 また、関西、東北、北海道における、障害者施設等への視察を通しては、知的障害者の場合には、福祉的就労、一般就労のどちらであっても低賃金であることを検証した。その結果、生活水準が低いところで抑えられることによって、貧困という問題が顕在しにくいことが明らかになった。学齢児においては、放課後の生活の社会資源不足、成人障害者にとっては、余暇活動や他者との交流の機会不足などの問題は、経済的事情によって派生している面も予測された。こうした問題意識をもって、2011年11月、貧困研究会第4回大会自由討論の部において、藤原、田中はそれぞれ発表を行い、参加者からも関心を示された。 一方、2012年3月には、デンマークにて、障害者家族への調査を行った。ここでは、障害当事者の生活が、高水準で社会的に保障されることにより、家族の生活とは経済的に分離されており、そのことが、障害者家族の障害観、障害受容にも大きな影響を与えていることが窺えた。ただし、新たな視点として、障害者の生活を社会保障の中で高位に保つことと、優生思想の問題が浮上した。すなわち、障害者の生活を国が経済的に保障することと、障害児の誕生を「予防」することとのジレンマを社会的にどう理解できるかという点が課題となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、障害児者家族が貧困に陥るリスクについて、多角的な視点から検討し、またそれを発表、報告することができた。ただし、障害児者の家族が貧困であるという生活状況が、子どもの養育にどのような影響を及ぼしているのかという、具体的な言及には至っていない。藤原は、虐待家庭において、障害児が被虐待児になる比率の高さ、虐待家庭が貧困であることの不利の重なりを問題提起したが、貧困と障害の重なりという検証は不十分であった。 障害児者が自立をする上で経済的な問題が弊害となり、その負担は、家族が生涯子どものケアを担うか、親子分離をした上で金銭的な支援を継続するという選択肢がこれまでの日本では一般的であった。その日本的な特性は、デンマークでの調査、視察によって、より明らかになった。デンマークにおいては、成人後の障害者に対する家族ケア並びに経済的支援は生じないというしくみであり、そのことが、家族の安心感を高め、障害受容を高めていると考えられる。。また、それは社会全体での障害観にも反映されるという好循環を作っていることが把握できた。障害者の貧困を論じるうえで、日本と北欧の障害観の比較検討ができたことは、今後の研究に大きな影響を与えるものと思われる。 次年度に予定している、障害児家族の家計に関する調査に際しては、成人後の「家族分離」が障害児者家族にとってどのように位置づけられているかという、日本的な特質を踏まえた上で実施することとし、調査票の作成は平成24年度に行うこととする。また、「障害児者の貧困」の定義を本研究で明確にすることを新たな目的として加え、その知見を今後の研究に活かしていくこととする。
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今後の研究の推進方策 |
日本国内の障害者施設、デンマークの障害者支援機関との研究交流を経て、「障害者の貧困」の定義が曖昧であることを認識した。社会保障それ自体の貧困による生活困窮、障害に由来する生活スキルの乏しさなどから派生する貧困、家族の経済的事情による生活困難等を分析することが必要である。障害者の貧困とは何を指すのかを理論的に整理し、かつ、それが障害者の生活の場における貧困の計測に耐え得るようにしたいと考える。 次に、障害者の生活が多様化する中で、家族からの経済的支援の有無によって、当事者の選択肢が規定されることを実証する。本人の就労所得、障害者年金では、地域での自立生活が困難である実態を、障害者家族や福祉機関の支援者がどう見ているのか、またそれは社会的にはどのように理解されているのかを探る。 家族のライフステージと、障害児の養育役割、経済的負担の関係を整理し、一生という単位に及ぶ、子どものへのケア役割、扶養役割がどのように家族の生活を規定しているのかを明らかにする。田中により先行している障害児家族への家計調査を踏まえ、質的調査を実施する。 さらに、北欧諸国における優生思想と障害児者支援の理念的「矛盾」を追究し、障害当事者の生活保障を社会的にどう位置づけるのかを検討する。藤原がこれまで行った、障害児家族の複合的な困難として表れている「障害の連鎖」、すなわち、知的障害をもつ親が、障害をもつ子どもを養育することへの支援の欠如や子どもの不利という視点から、障害児家族の貧困問題を再整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は、予定していた学会に2名共に不参加だったため、302948円の繰越金が生じた。24年度は、「貧困の定義」構築ための討議に伴う旅費(9万円×4)、障害者の家計調査の設計と実施に伴う旅費及び謝金(20万円×2)、調査のデーター処理に関する費用(7万円)に加え、調査データの性格上、特化した使用に充てるノート型パソコンの購入(15万円)を予定している。
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