研究課題/領域番号 |
23530800
|
研究機関 | 北星学園大学短期大学部 |
研究代表者 |
藤原 里佐 北星学園大学短期大学部, その他部局等, 教授 (80341684)
|
研究分担者 |
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (60413415)
|
キーワード | 知的障害 / 貧困 / 経済的負担 / 親の会 / 家族 / ケア役割 / 親亡き後 / 社会的支援 |
研究概要 |
平成26年度は知的障害児者の家族に表れる経済的問題が、親の中でどのように認識され、社会化されてきたのかの究明を研究の中心とした。障害児者親の会の歴史、親の会活動の今日的課題を概観する中で、障害児の養育に伴うコスト、家族の金銭的負担が、これまでどう位置づけられてきたかを検討した。第二次世界大戦後、障害者差別、権利はく奪の解消を目的として、また、それを行政に要求する組織として結成されてきた親の会の運動では、主として教育機会の保障、福祉サービスの拡充などが、活動成果として挙げられている。しかし、近年の経過をみると、障害者年金の在り方、福祉サービスの利用に伴うコスト、いわゆる家族への「手当」の問題なども顕在化してきていることがうかがえる。一方、親の会の高齢化、世代交代、親の会役割の変化などが、各会で指摘される中で、親の会は「セルフヘルプ」的活動にシフトしている一面もあり、障害児者の生活保障につながる運動団体としての性格が希薄化していることも否めない。そうであれば、障害者自身の高齢化に伴い、ライフステージ全体を展望しての経済的課題の把握は、取り残されるというリスクがあることも明らかである。フィンランドでの親の会活動へのインタビュー調査では、親の会組織による、成人後の子どもの居場所づくりが広がりを見せ、それが障害児者問題を社会的責任で担うという運動の成熟化とつながっていることが示唆された。日本の親の会組織とほぼ同じ時期に、同様の問題意識で出発した、両者の活動であるが、成人後の障害者のケア、権利保障、社会参加等々が、公的支援によって担われるフィンランドと、QOLを高めるためには親自身の経済的負担によってサービスを獲得しなければならない日本との、相違点を明らかにすることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先年までは、障害児者世帯の個別の家計調査を考察する中で、子どもが障害児であること以外の要素、地域性や階層性に規定される影響をどう分析するかを課題としてきた。本年は、親の会という組織を対象に、障害者の経済的不利に対する、「動き」「意識」「活動の成果」を調査するという視角を得ることができた点が評価できる。 当事者運動の歴史としては、1960年前後の身体障害者運動の主張に、経済的不利を訴えるものが散見されるが、知的障害者の親による「アドボカシー」活動の中で、経済的問題のアピールは抑制される傾向にあったことがわかる。一方、フィンランド調査では、子どもの将来や、親亡き後に対する不安がないと明言できる状態までに、障害者の生活環境を安定させてきた、親の会活動の果たした役割を知ることができた。すなわち、障害者の生活水準を障害のない市民の生活と同等に設定し、その暮らしを保障するための手立てを親の会も模索し、実践的に活動してきたことが、現在の障害者福祉政策に結び付いている。この点は、日本の知的障害者が、生活の中での不自由さと不便さなどを享受することを余儀なくされてきた経過と対比させることで、問題の所在を明確にすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究のまとめの年に当たり、以下の点を整理したい。 ①知的障害児者の貧困問題が社会化されにくい背景としての、労働生産性の低さと生活水準の相関について-福祉的就労、作業所での工賃、事業所での最低賃金以下での就労どが知的障害者の実態であり、自分自身の働きだけでは、自立した生活を営むことが困難となるが、その生産性の低さを根拠に生活水準に下げることが容認されていることの問題点を浮き彫りにする。②知的障害児者の家族が当事者となる、成人後のケアと経済的扶養の「ひずみ」について-知的障害当事者の収入が生涯を通じて限定的であることにより、家族が障害児者の経済的基盤に対する責任を担うことになる。しかし、子ども期よりのケア役割が継続する中では家族メンバーの就労そのものも制限される面があり、家族全体の所得を上昇させにくい構造を明らかにする。③障害児者の養育と家族責任に表れる日本的特性と北欧との比較-障害をもつ子どもが活用できる社会資源を開発し、成熟させることにより、親役割を軽減させていくというしくみが整っている国では、障害そのもの受容や理解が高まるという仮説に基づき、家族への依存傾向が強い、日本の障害者支援の在り方を再考する。ただし、北欧、フィンランドとの比較においては、障害の有無にかかわらず、子育てに対する社会的責任の違いが大きいことを踏まえる必要があり、成人後の障害者を家族がどこまで支援するべきかという議論を挟むか否かが課題である。④障害児家族に潜在化する貧困問題の「社会化」-障害児を養育する家族が経済的困窮を抱えること、障害者が自立をする過程で貧困問題の当事者にもなってしまうリスクを、障害者福祉という枠組みだけではなく、貧困問題の視角から検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当該年度、田中智子が産休・育休を取得したため、調査の実施を次年度に延期した。また、フィンランドヘルシンキでの調査は、2回に分けて実施する計画とし、助成金をプールすることとした。 障害児親の会組織の設立経緯、その後の運動的性格、現在の活動内容について、障害者の経済的問題がそこでどのように議論されてきたかを、日本とフィンランドで比較検討することを計画した。日本での知的障害者親の会の全国的組織へのインタビューも含め、旅費を計上する。
|