障害者は就労の制限や福祉的就労の条件などにより、単身では貧困に接近するリスクがあり、貧困から脱することが健常者以上に困難である。しかし、家族との同居や、貧困と障害を関連付けることのタブー視により、これまで、経済的困窮の問題を十分に検討してこなかったことに本研究は注視した。 平成23年度は研究動向の把握と理論的検討を行い、複合的な困難という視点から、障害児者家族の貧困をみる必要性を明らかにした。障害児の養育に伴い、結果的に親の就労条件が制限されるだけではなく、世帯の生活困窮が、子どもの障害を顕在化させることや、医療・療育からの阻害を招くという構造的な問題が浮かび上がった。平成24年度は、知的障害者を含む世帯の家計簿調査を分析し、本人収支と支出合計のバランスを見ると、家族同居の知的障害者は、平均40224円、グループホーム入居者の場合は、平均30849円が支出超過であることが分かった。平成25年度は、フィンランドでの、知的障害者家族へのインタビュー、機関ヒアリングを行った。そこで得た知見は以下のとおりである。障害者の生活は、国及び地方自治体によって保障され、家族が経済的支援を行うことは見られない。障害者自身の年金によって、日常生活介助、余暇活動、移動支援が保障される。ただし、その生活の質が、健常者である家族のQOLと同質であることに対しては、家族は行政への強い要請を行っている。これは、経済的な保障という側面のみならず、親が障害を持つ子どもの将来を安心して見守ることができるという態勢にも関係していると考察した。平成26年度は、家族によるケア役割の強化が、世帯の貧困を招くリスクについて検討し、障害者自身への直接的なサービス提供により、家族に依存しない「地域生活」の在り方を探る必要があることを明示した。脱施設以降の障害者の地域生活は、家族の経済的負担を高めていることも明らかになった。
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