本研究は、対人場面で感じる「感謝」が、対人関係にどのようなポジティブ効果を及ぼすか3つの介入実験と3つの調査研究で検証したものである。 介入実験では、幼児に感謝の仕方を教えるソーシャルスキル・トレーニングを実施しても、ポジティブ効果は限定的であることが分かった。他方、小学生に感謝スキルを教えると、子どもたち同士の対人関係に良好な効果を及ぼすことが明らかになった。さらに、大学生を対象にして、感謝を数えることが主観的ウェルビーイングに及ぼす効果を介入実験で検討したが、米国で認められているようなポジティブ効果を見出すことはできなかった。これら3つの介入実験全体を通じて、感謝スキルのトレーニング効果は、発達レベルによって異なること、また、大学生の結果からは、感謝のポジティブ効果には、感謝の文化的差異があることが示唆された。 1つ目の調査研究では、対人場面における感謝感情および感謝行動の個人差を測定するための心理尺度「感謝感情-行動尺度」を開発した。2つ目の調査研究では、この尺度を使って、感謝感情および感謝行動と、個人特性との関連を検討した。その結果、感謝感情と感謝行動は、友人関係満足度、親子関係満足度、社会的自己と関連することが明らかになった。3つ目の調査研究では、他者から援助された場面において、感謝のしやすさ(特性感謝))が、どのような経路を経て、感謝感情につながるかを検討した。その結果、感謝しやすい人ほど、受けた援助の価値を高く評価し、その結果、強い感謝を感じるという経路が明らかになった。 以上の諸結果は、我が国ではいまだ不十分な、「感謝」のポジティブ効果に関する実証的知見を提供するものである。
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