研究課題/領域番号 |
23530821
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
増田 匡裕 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (30341225)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 対人関係 / ソーシャル・サポート / 対人コミュニケーション / 悲嘆 / 周産期の死 / 関係修復 / ナラティヴ |
研究概要 |
本研究は同一の研究参加者に対して合計2度の調査を行う縦断的研究である。平成23年度下半期中に第1次の調査を実施する予定であったが、インフォーマントとの接触に時間を要しており、年度内にデータ収集活動を開始することはできなかった。しかしながら、研究会やイヴェントへの参加によって、増田が10年間続けてきた「誕生死ケア(周産期の死に対する悲嘆ケア)」の研究で培った医療従事者や自助グループとのリエゾンを再構築しており、その機会に研究計画について現場からの助言を受けている。予定よりも多くの旅費を用いて医療従事者と会い、現場のニーズについては確認することができた。その成果は年度内に実践に移すことはできなかったが、平成24年度前半には質問紙法による調査を実施する準備に入っている。 その一方で、「修復」の理論の構築のため、社会心理学における類似した概念との比較検討の作業も行った。予定にはなかったものの、最新の知見を得るために海外の学会に参加して、本研究が社会心理学ではどのような位置づけができるのか、理論面での準備も実施した。またそれを補足すべく、対人支援場面以外での対人関係の修復についても検討を進めている。 データ収集活動に着手できなかったものの、非常にセンシティヴなトピックを扱う研究を行う上では拙速は禁物であるため、準備に時間を掛けたことは十分な成果と言える。またその間に実践と理論の両面について入念な再検討を行えたことは、データ収集後の本研究の成果発表の準備に必要であったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅れている理由は3点である。 第1に、看護学を中心とした医療分野での類似した研究との差別化を図るために、医療従事者との研究打ち合わせを重ねたためである。類似した研究が実施されている場合、社会心理学の立場からどのような新しい知見を提言し得るかと事前に考慮しなければ、現場からの信頼を得ることができない。医療の現場では看護学の学部生・大学院生の研究参加依頼が多いため、社会心理学のユニークさと現場への貢献をアピールするための理論武装が必要である。 第2に、本研究のユニークな点である「修復」の概念が、対人関係の社会心理学や対人コミュニケーション論においてどのように位置づけられるのか、理論的に再考する必要があったためである。これは前述の第1の点とコインの裏表の関係にある。現場密着型の研究は現場のニーズに応えるだけで満足してしまいがちだが、学問分野全体への貢献と両立すべきものである。理論的意義の考察はデータ収集後でも可能であるが、現場の負担を考慮すれば、事前にできるだけの準備をすべきである。 第3に、技術面での困難に直面したためである。予備的な面接調査を実施する際に分析補助者として予定していた人物が家庭の事情で活動できなくなり、研究者の研究活動の補助者を雇うことができず、そのため謝金の支出ができない状態になった。助手を雇うことのみならず、インフォーマントとして研究に協力を仰ぐ予定の施設や団体の事情で、調査依頼を控えなければいけないことが多く、その結果データ収集活動の準備が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度については、平成23年度の繰り越し分の研究費を用いて、当初平成23年度下半期に実施する予定であった質問紙調査を実施する。それと並行して、その調査の回答者の中からインフォーマントを募り、イン・デプス・インタヴューを実施する。 平成23年度の研究活動により、援助する側(医療従事者など)が抱き続けるコミュニケーション不全感が、対人援助者と被援助者との関係におけるひとつの重要な問題であることが明確になった。従って、本研究では、主に対人援助者を対象とした研究を行う。研究参加者の募集には、これまでの活動でのリエゾンのネットワークのみならず、グリーフケア(悲嘆ケア)関連のイヴェントを活用する。 理論面については、対人関係の修復が、必ずしも「相手との仲直り」を意味するものではなく、自身のアイデンティティを脅かさない形で対人関係の意味を再構築するものであるという視点を重視する。具体的にはナラティヴ(語り)を用いた分析手法を積極的に導入して、対人関係研究への適用例と照らし合わせながら、最終年度に理論的なアピールが可能となるよう入念な準備をする。幸い、今年度は対人関係研究の国際学会の開催年であるため、シカゴでの大会に参加して最新の知見を得る。 現場へのフィードバックの準備が必要であることは言うまでもない。対人援助場面での研究成果の応用を検討すべく、今後も対人援助者の研究会に参加して現場のニーズの変化をアップデートする。
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次年度の研究費の使用計画 |
質問紙調査を実施するために、統計パッケージSPSSなどのソフトウェアの購入と分析用のノートパソコンの購入をするが、これは平成23年度に執行予定だったものである。四国外の医療系の研究者の意見を参考にしながらデータ分析を行うことが多くなったため、携帯に適したものが必要である。 これまでのリエゾンを活用したデータ収集のため、九州・近畿・関東甲信越で実施されるグリーフケア関連の研究会やイヴェントに赴くため、国内旅費を用いる。 本研究の意義を対人関係研究一般にどのように位置づけるかを見定めるため、7月にシカゴで開催される「対人関係研究の国際学会(IARR)」に参加するため、海外旅費を用いる。 謝金については、データ収集活動の状況次第で弾力的な支出を行う。社会調査業者を用いたデータ収集もあり得る。また、適任者が見つかった場合の分析補助者やインタヴューアーへの謝金や、インフォーマントへの謝礼などインタヴューに関する経費も必要であるが、これらの支出には平成23年度の残金が充当される。
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