研究課題/領域番号 |
23530821
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
増田 匡裕 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (30341225)
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キーワード | グリーフケア / 喪失体験 / 関係修復 / ソーシャルサポート |
研究概要 |
喪失体験の研究者が新たなる喪失を体験した際に、自身が実施中の「喪失体験の研究」を根本的に変更せざるを得なくなることを「実践」したことが、心ならずも「研究実績」となる1年であった。当初最終年度であった平成25年度の研究の成果は、申請時の研究計画の問題点を理論的に再吟味して、年度当初に報告したように短期間ながらも質問紙調査による縦断研究を実施する準備を進めていたが、勤務校における重大な喪失体験への対処に追われ、研究の続行が不可能になった。しかしながら、これまでの研究活動を通じて得られた喪失体験当事者・対人援助職・研究者との交流で、この困難な事態を打開する新たな研究課題を得ることができた。それに基づいて本課題の延長申請を行い、受理を確認して平成26年度4月から面接法によるケーススタディを開始した。予定通り、26年度末には一定の成果を報告できる。 平成25年度の研究活動は三度頓挫した研究活動の立て直しのみに費やされたのではない。本課題の目的である「関係修復」に関する理論を構築するため、積極的に内外の学会に参加し、特に医療者対象の学会では介入を研究の目的とする対人援助職の立場と基礎研究を行う社会心理学者の立場との違いを確認することができた。「介入」できなければ自分たちの存在の意義がないと考える対人援助職の考えが、被援助者たる喪失体験者に対して驚異となり得ることは明らかで、実際の相互不信の根源がそこにあるという仮説を見出すことができた。これに「修復」という概念をどのように結びつけるかが、延長された平成26年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上述のように延長申請を行った。「補助事業期間延長承認申請書」に記したように、死に際する組織的な対人支援の困難さを実際に体験する事件が学内で発生し、その対応に追われて心身共に消耗したためである。 但し、研究を再開するに当たって、喪失に対する対人支援について新しい洞察を得ることができたため、甚だしい遅滞にもかかわらず今後の研究遂行に対する障碍はない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
被支援者が支援者に対して期待しているケースと、疑念を抱いているケースを比較するケーススタディとして、本課題を再開している。特に、ピアサポートなどの対人支援活動に加わっている被支援者や、医療従事者などの対人支援者に積極的に協力している被支援者と、過去にそのような活動をしていたが現在は活動をやめている被支援者との比較を軸に、非構造化面接による調査を実施中である。インフォーマントとのコンタクトについては、これまでの12年間の活動で得られたネットワークを活用して、積極的に行っている。平成26年度半ばまでには、支援者に近い立場と支援者から離れた立場の喪失体験者や、体験者ではない支援者など様々な立場のインフォーマントからの聞き取りを終了することができる。 平成26年5月からは収集したデータの分析も並行しており、質的心理学の理論に基づいた分析を行っている。今年度の学会発表は難しいが、年度末までには十分な報告書が完成することは間違いない。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年8月から12月にかけて、指導学生の自死によって発生した諸問題への対処に追われ心身共に消耗し、一時期は休職を考えるまでに至った。これにより、平成25年度当初計画に明記していた質問紙調査を実施することができず、研究計画をまたもや白紙に戻さざるを得なくなった。これまで培ってきたネットワークの人々のサポートで研究計画を練り直し、研究期間を1年延長することになった。 平成26年度使用額は、既に実施中の聞き取り調査に充当される。これまで研究代表者が培ってきたネットワークによりインフォーマントを募っているため、福岡・山口・広島・兵庫・大阪・奈良・京都などの府県に出張して聞き取り調査を実施する。そのための出張旅費とインタヴュー会場確保のための会議費に用いる。また、インタヴューのデータは信頼できる業者に依頼して文字起こしするため、そのための謝金に用いる。
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