研究課題/領域番号 |
23530824
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
池上 知子 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (90191866)
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キーワード | システム正当化理論 / 統制感覚 / 相補的世界観 / 平等幻想 / 統制の所在 / 経済格差 / 学歴社会 |
研究概要 |
本研究では、補償的統制説(人間は個人レベルでの統制感覚の欠如を外在的な力により補おうとするという考え方)に基づき、(1)環境や人生に対する統制感覚を阻害する状況に置かれると、外在的な力により相補性原理が働き、格差や不平等が解消されるであろうという期待が高まる (2)個人的統制感(自らの力で社会を変えうるという感覚)を強めると、相補的世界観にもとづく平等幻想の生成が抑制され、人々は格差や不平等の解消に動機づけられるようになる という仮説を検証することを目的としている。 平成25年度は、平成23年度と平成24年度に実施して得た研究知見を別の角度から検証した。平成23年度は、研究の基本的前提となる統制感覚と相補的世界観、及びシステム正当性信念との間に理論的に想定される関係について、大学生を対象に質問紙調査を実施し検討したが、平成25年度は30代、40代の社会人を対象にWEB調査を実施した。その結果、日本社会は学歴によって社会的成功が決まると信じている場合に、相補的世界観によって現行の社会システムを肯定する傾向が顕現化することが示された。換言すれば、「学歴社会」への統制感の低さを相補的世界観への信奉によって補い正当化していると考えられる。また、大学生を対象にシナリオ実験を実施し、社会的成功は本人の意志や努力によるというメッセージを提示することによって統制感覚を強めると、相補的世界観を起動させ現行システムを正当化する傾向が弱まるかを検討した。ところが、予想に反して、努力や意志によって社会的成功と失敗が左右されるというシナリオに接触した条件のほうが、相補的世界観による正当化が明確になった。社会経済的格差の原因を内的要因に帰属したことによって両者の差異を弁明する余地がなくなったためかもしれず、人がどのような場合に相補的世界観を起動させるかについて新たな知見が得られる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人がどのような場合に相補的世界観を起動させ、現行システムの正当化を図るかと言う点については、環境への統制感との関係で当初想定していた以上の知見が得られている。他方、本研究の第2の目的である、人がどのような場合に現行システムの変革に動機付けられるかについては、仮説とは逆の結果になり、新たな検討課題が浮上した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究では、統制感覚を一時的に変化させるために、参加者自身に起きた過去の出来事を想起させる方法を用いた。平成25年度は、他者に起きた出来事を観察しても同様に統制感覚が変化し、その結果として相補的世界観が駆動して平等幻想が生成されるかを検証することにより、自他のいずれに起きたかを問わず出来事のコントロール可能性の認知が重要な要因となりうることを実証することを試みた。しかし、環境事象のコントロール可能性の認知が自分に起きた出来事と他者に起きた出来事とでは、受け止め方が異なる可能性が示唆されたため、平成26年度はこの点を考慮しつつ、相補的世界観の起動を抑制し、システム変革動機の喚起を促す要因を探ることにする。
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