研究課題/領域番号 |
23530828
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
黒澤 香 東洋大学, 社会学部, 教授 (90205237)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 討論型世論調査 / 裁判員制度 / 一般市民 |
研究概要 |
新しい研究のやり方を探すのは難しい。これまでにない方法を探して、まず裁判の情報を探した。実際の裁判の材料を使おうとしたが、ある弁護士に、実際の事件の情報を使うのはまずいと指摘された。守秘義務が存在するので、弁護士にとって情報を出すのが難しいという。どうしたらよいのか分からない状況が続いたが、裁判の傍聴を行っている団体の会報に傍聴記があったので、それを使うことにした。傍聴記であったので、それを裁判の記録にするために、アルバイトが直しを入れて使うことにした。これを裁判の記録の形に直し、裁判情報ができたのが今年の1月で、その資料を使って予備実験を行った。その実験もインターネットを使い、しかし個別のデータを求めた。そのようにして80名を超す予備実験の参加者があったが、有効なデータは20名ほどになってしまった。この20名のデータは、ばらついているので、使えると考える。また、もうひとつの裁判の資料(報道されたもの)を弁護士にいただいた。これを実験に使うために、裁判の記録の形にしなければならない。これらは1週間の間に出た覚醒剤密輸で、有罪と無罪の判決である。引き続き、これらの裁判材料を使ってデータを取る予定である。 さて、研究の理論的な面のため、本年は韓国で開かれた学会に参加した。East Asian Law and Societyの2011年の大会である。私の発表はわが国で始まった裁判員制度に関するもので、疑問を呈したが、残念ながらデータを含んでいない。大会の発表者は社会学者と法学者が多かった。裁判員制度に関する発表もわりとあったので参考になった。また、韓国に渡った実際の目標である、参加者に個別に話を聞くというのを行った。実際に役に立ったか、その結果は出ていないが、主観的な面から、たいへんためになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上で述べたように、これは新しい研究であるので、簡単にはできないと考えていたが、思ったより難しかった。しかし、その問題も克服されつつある。つまり、事件と材料が見つかったのである。だが予定の達成率から行くと、遅れていることになる。遅れを取り戻したいと考えている。 また、裁判員の仕事は実験参加者が行うのであるが、裁判官の役割をどうすべきか、現在のところ、思案中である。裁判官という仕事をするのは、エキスパートでなければならない。弁護士であれば、可能であるかもしれないが、実験に参加するのは難しい。というわけで、現在は未定ということであるが、どうするか決めなくてはならない。 結局、この研究は現場から離れていることになるが、そのこと自体が問題ではない。これで裁判の結果について、意見を述べるわけではない。しかし、あまり現実と乖離してしまうと、そのことが問題になってくる。したがってよく考える必要がある。 予定した達成度から見ると、60~70%がよいところかも知れない。ホームページの作成などは進行しているが、収支簿に反映していない。反対に、学会発表などは順調に行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのやり方で特に問題はないと考えている。もちろん上記のとおり、裁判官の役割については、考えなくてはいけない。そのことについては、これからどうすべきか、検討を続けていくことにしたい。 さて、裁判1は資料ができ、仮実験を行うことができた。ただ、ホームページが完成していないし、実際のデータは、約1/4になってしまった。残りのデータは、どこに行ったか分からない。これを取り戻すために時間を費やしたが、結局、失われたデータは取り戻せなかった。実験1の資料は、傍聴した者から見て完成しているので、裁判官の仕事は別として、実験に使用できると考えている。そこで裁判2の資料化に取り組む。これも報道されている内容(裁判員制度で最初に無罪になった事例)であるが、傍聴していないので、少し難しい。実験1と内容が似ているので、参考にしようと考えている。これが完成したら、データを取りたいと思っている。ただ、実験にするには、議論をしてもらうことが必要である。これをどうするか。試行錯誤で行くしか、しようがないと考えている。 また、海外の研究者を講演に招聘することを考えている。現在の候補はアメリカの研究者である(ペンシルバニア州立大学教授)が、まだ話をしていない。討論型世論調査の専門家であるが、心理学は専門ではない。専門は違うが、いろいろと考えて、問題はないと思う。至急、連絡を取って、今年の都合をきいてみたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰越の理由については、ある弁護士の指摘により問題が出てきたが、そちらに気を取られていて解決が遅れたことが挙げられる。しかし、裁判の情報が2つ見つかったので、この問題はなんとかなると考えられる。使い残した今年度の予算であるが、ホームページ制作と、もう一つの裁判情報の作成のため、予定通り使いたい。予定が遅れたが、大きな変更点は今のところ、出ていない。 次年度の実験のための裁判・検討資料であるが、今のところ、すでに述べたように2つの裁判例が出されている。あとはこれを使って実験参加者に議論をさせ、データを取るため、どれだけの情報が必要か、考えていきたい。裁判官の存在はどうするか、これから検討して行くが、うまく行くかどうかは分からない。さいわい、裁判官の存在の有無は、これから取っていくデータにそれほど影響を与えないかもしれない。いずれにせよ次年度の研究費の使用計画については、この問題は大きな影響を与えないと思われる。 それから、海外の研究者を招聘するために、30万円くらいの予算を考えている。どのくらいの予算が必要であるか、相手によって決定されるが、これに予算を使いたい。そして、予算の大きな部分が、ホームページ作成に必要になってくる。そのため、アルバイト代を投入することにしたい。次年度予算の残りの大部分が、ホームページの作成と、読者(実験参加者)からデータをとることに費やされるということが考えられる。ただし、研究費のこの使用計画は、最初に考えたものから変更なしということである。
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