研究課題/領域番号 |
23530854
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
戸田 有一 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (70243376)
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研究分担者 |
宮前 義和 香川大学, 教育学部, 准教授 (40325329)
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キーワード | ピア実践 / 実践評価 / いじめ / キヴァ / 予防教育 / 相互対照群モデル |
研究概要 |
研究2年目は、より高度な実践導入の準備、評価研究のためのプログラミング、及び成果発表を行った。 <実践導入>昨年度よりピア実践導入の協働をしている小中学校において、実践に関する理論面での研修会を行い、萌芽的実践についての学会発表を支援した。そのうえで、実践の方向性を模索し、並行導入する複数のピア実践のなかのピア・サポート実践について、いじめ被害者への支援だけではなく、いじめの予防や緊急対処を含むキヴァ・プログラムを導入することにした。10月に国際専門家会議のために来日したフィンランドのサルミヴァッリ教授を実践者に紹介し、実践導入を検討した。その際にキヴァ・プログラムを道徳の授業に位置づけるアイディアがだされ、11月の道徳性発達実践学会では発案した実践者がキヴァ・プログラムと道徳の徳目の関連性に関する発表を行い、学会の大会賞を受賞した。その後、キヴァ・レッスンの日本語マニュアルの作成、導入する学校や時期に関する検討、キヴァ・ゲームの日本移植の可能性の検討等を行った。 <評価研究のためのプログラミング>夏に欧州の大学を訪問して統計の専門家と情報交換した。さらに冬にはその専門家を招き、相互対照群モデルのデータ分析の検討と、Rによるプログラミングを行った。 <成果発表>鳴門教育大学の山崎勝之教授、法政大学の渡辺弥生教授との共編著で、『世界の学校予防教育』(金子書房)を出版した。これは、北米、欧州、豪州、アジア諸国の学校予防教育について、それぞれの国の研究者と共同で実践やその背景の理論を論述した高度な学術書であり、研究にも実践にも貢献すると思われる。いじめ対策実践の基礎となるネットいじめ関係の共同研究もすすめ、海外の書籍での分担執筆、国際学会での発表などを行った。国際学会では、実践の文化間移植に関する理論的研究を行っているスウェーデンの研究者と出会い、情報交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
相互対照群モデルによるピア実践の評価研究という目的を達するための前提の実践導入に大きな労力をかけており、研究計画よりも進捗状況は遅れているが、当初の想定の範囲内である。むしろ、既存の実践ではなく、最先端の実践を導入することに主眼をおいており、もしもキヴァを日本に移植することができたら、いじめ対策に大きく貢献することができると思われるため、この方向ですすめていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
6月下旬にフィンランドの研究者を招いて実践導入を行う。複数の小学校の4~6の学級で、道徳の時間に位置づけての試行実践である。なるべく実践者の主体性を重んじるため、細かい部分ではもともとのキヴァの内容に固執することなく、日本版のキヴァを創り上げていくような方向で進めていきたい。 相互対照群モデルによる評価研究を最優先にして、実践の導入を拙速にすることで、評価研究のための実践にならないように、また、実践に即して広く利用可能なように、簡便に作成できる質問紙フォーマットと、実践と評価の共同実施手順の明確化を行う。また、事前事後モデルで調査をする際に匿名性を維持するための工夫をする。そのことで、現場で、子どもにも実践者にも過度の負担をかけることのない相互対照群モデルによる実践のエビデンス検討ができるように貢献したい。これは、キヴァ・プログラムを含んで行う可能性もあるが、種類の異なるピア・チューター実践のみで行う方が現実的であると考えられるため、その方針で行う可能性もある。 10月には昨年度も招聘した統計の専門家を招き、実践者との協働がより容易にできる実践評価のためのプログラミングを依頼する。 英文でのいじめに関する本の執筆や、ネットいじめに関する紀要原稿の執筆、いじめ研究の展望やいじめ対策に関する原稿依頼を多数受けているので、それらを期限までに、最先端の知見を含むかたちで仕上げていく。そのためにも、9月に行われる欧州発達心理学会に参加して、最新の情報について交流するとともに、そこで、ネットいじめを含むネット問題全般に関するシンポジウムを行う。様々なピア実践が、単に学級内の関係性をよくするためのものではなく学校全体をよくすることは以前より目指されているが、さらにはネット社会というコミュニティにおける関係性の改善に寄与するように、新たな実践のあり方を構想する機会としたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
実践の導入に時間がかかったため、実践評価研究を行うことができず、研究費を使い切ることがなかった。翌年度には、実践評価研究を行うことと、海外での成果発表などの旅費で、使い切る予定である。
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