本研究は、生徒指導上の問題行動に対する青少年(中学生・高校生)のリスク認知過程を明らかにし、リスク過小視に影響する要因を同定することを目的とした。最終年度の本年度は、対象校の希望により、当初前年度までと計画していたデータ収集と現場への還元を、中学校2校、高校1校で継続した。その結果、3年間の研究期間を通じて得られたデータは中学生約5050件、高校生約8700件となった。これらのデータは学校単位での収集であるため、地域性による偏りの可能性が考えられる。そこで、本年度は別途Web調査を用いて全国の高校生から700件のデータを収集し、比較することで結果の一般性を高める工夫を行った。その結果、多少の差違は見られたもののデータの男女構成比の差違に帰することができる範囲であると考えられた。モデル解析では、結果予測の程度や認知欲求を説明変数とする影響過程と、他者との関係性評価を説明変数とする影響過程が設定されたが、相対的に前者が強く見られた。 本研究の成果は、2つの側面から捉えられる。ひとつはアカデミックな基礎的研究としての側面であり、リスク認知過程における新たな知見を得たことである。なかでもリスク過小視における結果予測の重要性、それを支える認知欲求要因の影響を明らかにしたことは、青少年の問題行動抑止の上で有効な知見といえよう。もうひとつは、学校教育現場に対する還元がもたらした効果である。本研究が提供したリスク心理学に基づく生徒の実態把握によって、学校現場は生徒指導上の新たな視点を得ることができ、生徒の内面からの予防的生徒指導の取り組みを推進する機運が生まれている。最終年度では、本研究を土台とした発展的研究にも着手した。それは学校現場との共同研究で、中学生を対象として結果予測力を高める課題を総合的な学習の時間を用いて実施し、効果性を検討するものである。
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