研究課題/領域番号 |
23530868
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
久保 ゆかり 東洋大学, 社会学部, 教授 (10195498)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 情動表出 / 幼児 / インタビュー / 情動調整 / 縦断的研究 / 情動コンピテンス / 認知発達 / 情動知性 |
研究概要 |
平成23年度は、幼児期における情動表出についての認識の発達について、幼児期3年間の変化について、横断的にデータ収集を行い、幼児期3年間の変化の平均的な全体像を描出することを目的として取り組んだ。具体的には、年少組児(4歳)・年中組児(5歳)・年長組児(6歳)を対象としてインタビューを実施し、喜び・悲しみ・怒りの各情動の経験およびその先行事象ならびに各情動の表出の機能について尋ねた。 その結果、各情動の経験の有無とその先行事象については、個人差と各情動による違いはあるものの4歳児であってもある程度語ることが可能であったが、情動表出の機能については、4歳児は語ることが困難なことが見出された。5歳児と6歳児は、個人差と各情動による違いはあるものの、情動経験の有無とその先行事象のみならず、情動表出の機能についても語ることが可能であった。 情動の種類別には、喜びについては、4歳児であってもほとんどの子どもたちが、経験があると答え、その先行事象についても語ることができ、5・6歳であれば、その表出の機能についても語ることができた。それに比して、悲しみと怒りについては、経験が「ない」と答える場合が少なからずあり、その表出の機能についても語られないことも見られた。6歳においては過半数が、悲しみと怒りの表出の機能について語ることができた。 以上から、幼児期3年間の発達像としては、次のような姿がうかがえる。すなわち、ポジティブな情動については、その経験と、表出の機能について、比較的早期から認識することが可能であることが示唆された。一方、ネガティブな情動については、幼児期においては、その表出の機能を認識することは容易ではなく、経験そのものについて語ること自体も容易でないが、6歳ではなんらかの機能を認識し始めることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に実施した研究の主たる目的は、幼児期における情動表出についての認識の発達について、横断的にデータ収集を行い、幼児期3年間の変化の平均的な全体像を描出することであった。具体的には、年少組児(4歳)・年中組児(5歳)・年長組児(6歳)を対象としてインタビューを実施し、喜び・悲しみ・怒りの各情動の経験の有無とその先行事象、ならびに各情動の表出の機能について尋ねた。その結果、幼児期3年間には、平均的には、次のような違いのあることが見出された。すなわち、4歳児は、各情動の経験の有無とその先行事象については、ある程度の理解をすることが可能であったが、情動表出の機能について認識することは困難だった。5歳児は、ポジティブな情動については、その経験と、表出の機能について、認識することが可能であることが示唆された。一方、ネガティブな情動表出の機能については、認識することが容易ではなかった。6歳児はポジティブな情動のみならず、ネガティブな情動表出の機能について、認識し始めることが示唆された。今後の課題としては、年少の幼児に対して、ネガティブな情動についてどのように尋ねたら、より語りやすくなるのか、質問の仕方とその内容を工夫することが必要であることが見出された。 以上から、現在までに研究は、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、新たな4歳児(幼稚園・保育園の年少組児)に対して、週1回のペースで参加観察を実施し、年度末には情動表出に関するインタビューを実施する。その子どもたちに対して、1年後、2年後にも同様の参加観察とインタビュー調査を実施し、平成26年度まで追っていく。それによって、ひとりひとりの子どもの、情動表出についての認識が、どのように変化していくのか(どのような点は変化しないのか)を明らかにする。具体的には、情動表出(表情)の理解の可否、自他の情動表出についての認識、実際に体験した「あのときの、あのこと」における情動の交わし合いについての認識、それぞれにおいて、1年後、2年後には、どのカテゴリからどのカテゴリへと変化したのかを、子ども一人ひとりについて分析する。それによって、情動表出についての認識の発達の道筋を記述し、どのような多様性があるのかを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
幼稚園・保育園に出かけていって(都内交通費が必要となる)、参加観察(毎週1日)とインタビュー調査(年度末に約15日間)を行う。参加観察を実施するにあたっては、子どもたちのやりとりをメモし記録するためのフィールドノーツ(専用のノートと筆記具)とボイスレコーダーが必要である。インタビューを実施するにあたっては、やりとりを記録するためのミニディスクレコーダーとミニディスク、乾電池が必要である。表情等の提示のため、iPadを使用する。 インタビューでのやりとりはテープ起こしをして文字化し、トランスクリプトを作成し、質問への回答を付箋に書き込み、蓄積していく。これらの作業と資料整理をするために、謝金(1人×1ヵ月)とコピー代、文具ファイルが必要となる。 付箋に書かれた回答は、KJ法に準じて分類され、カテゴリが生成される。ここで、信頼性・妥当性をチェックするために、評定補助の謝金(1人×1ヵ月)が必要となる。分類された回答のうち数量化できるものについては、年齢差と個人差を検討するために統計分析をするので、そのための統計情報処理ソフト、PC関連消耗品が必要である。 分析結果をまとめ、論文にするために、また、今後の展望を得るために、社会情動的発達の研究分野での最新の研究成果を知り、理論や方法論について精緻化していく必要がある。社会情動的発達に関する専門書(単価 平均5千円)の購入が必要である。平成24年度におよそ20冊の購入を予定している。
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