研究課題/領域番号 |
23530868
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
久保 ゆかり 東洋大学, 社会学部, 教授 (10195498)
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キーワード | 情動理解 / 幼児期 / 認識 / インタビュー |
研究概要 |
2011年度の研究結果(2012年度から開始する「3年間を追う縦断的研究」の、実質的なパイロットスタディであって、4歳児・5歳児・6歳児を対象として、横断的にデータを収集)に基づき、2012年度から開始する縦断研究では、4歳児に対しては、各情動の経験について尋ねることを中心に調査を実施するように計画を修正することとした。 2012年度は、具体的には、4歳児を対象として、自由遊び場面の参与観察(週1回)と、1対1のインタビュー(年度末に1回)を行った。インタビューでは、対象児自身および「園のお友だち」について、うれしい、悲しい、怒ったという感情経験の有無を尋ねた。 その結果、全体としては、うれしい経験については、ほぼ8割の子どもたちが自他共にあると応えたが、悲しい経験については、あるとした子どもたちは半数に満たず、怒った経験については、あるとしたのは、1/3に満たなかった。特に、自身が怒った経験があるとした子どもは2割に満たなかった。自他のポジティブな感情に比して、ネガティブな感情の経験は捉えられにくい、あるいは語られにくいことが推測される。 一方、個々にみていくと、全部の感情経験を自他共にあると応えた子どもが13%、逆に全部ないと応えた子どもが6%、自他共にうれしい経験のみあるとした子どもが26%、自身よりも他者の方が各種の感情経験をよくしていると応えた子どもが32%、逆のパターンで応えた子どもは13%などとなった。そこから、「自他共にうれしい経験のみあるとの応え方」と、「自身よりも他者の方が各種の感情経験をしているとの応え方」が代表的なものであることがうかがえるとともに、自他の感情経験についての捉え方・語り方には、広範な多様性のあることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(2011年度)には、2012年度から開始する「3年間を追う縦断的研究」の、実質的なパイロットスタディとして、4歳児・5歳児・6歳児を対象として、横断的にデータを収集した。その結果から、4歳時点では、各情動の経験について尋ねることを中心に調査を実施するように計画を修正することとした。 その修正に沿って、2012年度には、実際に、新たな4歳児を対象として、自由遊び場面を参与観察(週1回)し、年度末に、1対1のインタビューを行い、うれしい、悲しい、怒ったという感情経験について尋ねた。その結果、上述のように、4歳時点においては、全体としては、自他のポジティブな感情に比して、ネガティブな感情の経験は捉えられにくい、あるいは語られにくいことを見出すことができたと同時に、自他の感情経験についての捉え方・語り方には、広範な多様性があるという示唆を得ることができた。 2012年度は、幼児期3年間の発達を明らかにするための、「3年間を追う縦断的研究」の1年目という年であった。そこにおいて、上述のように、4歳時点での情動認識の特徴を描出することができたことからは、おおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度には、当初の計画通り、2012年度の4歳児達の1年後を追うこととする。引き続き週1回、園における参与観察を実施し、その際には、特に情動に関わるやりとりの実際について記録し、背景や文脈を共有した上で、インタビューを実施することとする。その背景や文脈を共有していることは、インタビューデータを分析する際に、子どもにとっての意味を捉えていく上で手がかりを提供しうるであろう。 2013年度の5歳時点におけるインタビューでは、各情動の経験についてのみならず、情動表出の機能についても尋ねることとする。さらに、2014年度の6歳時点でも同様のインタビューを行い、情動表出の機能についての認識の発達に関しては、2年間の縦断的なデータを収集することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年度には、引き続き週1回、園における参与観察を実施(都内交通費を使用)し、その際には、特に情動に関わるやりとりの実際について記録する(ICレコーダとメモリ、フィールドノーツと付箋紙を購入)。背景や文脈を共有した上で、5歳時点でのインタビューを実施することとする。インタビューで語られる内容は、その場でノートにメモをとりつつ、音声をICレコーダに記録する(テープ起こしのために謝金を使用)。インタビューで得られたプロトコルデータに対しては、筆者が分析のためのカテゴリを作成しコード化し分析する。その信頼性を検討するため、プロトコル分析を第三者に依頼する(プロトコル分析のために謝金を使用)。さらに、それらの質的データに対して、ノンパラメトリック検定を行う(統計情報処理ソフトを購入、その処理のためにノートパソコンを購入)。 その研究結果は、学会にて発表し、他の研究者・実践者に情報提供すると同時に、互いにフィードバックしあって、枠組みを磨いていくこととする(学会参加のため国内旅費を使用)。また、近年、社会情動領域の発達研究の進展はめざましく、その領域に関する内外の最先端の研究を常にチェックし吟味し、本研究計画の枠組みをよりよりものにしていくこととする(社会情動的発達に関する書籍を購入)。
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