研究課題/領域番号 |
23530872
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研究機関 | 健康科学大学 |
研究代表者 |
中川 佳子 健康科学大学, 健康科学部, 教授 (50389821)
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研究分担者 |
小山 高正 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (20143703)
武居 渡 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (70322112)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 言語発達 / 言語発達検査 / 文法発達 / 聴覚障害 / 発達障害 / 高齢者 / 生涯発達 / 認知症スクリーニング |
研究概要 |
(1)コミュニケーション障害児・者における日本語理解力の横断的調査 本年度の研究では、広汎性発達障害児・学習障害児・ADHD児・聴覚障害児を対象にJ.COSS日本語理解テスト(中川他,2010)を実施し、これらコミュニケーション障害児の文法理解力を横断的に調査している。その結果、聴覚障害児における書記日本語理解力の発達過程は、3歳から12歳までの幼児や児童、65歳以上の高齢者における日本語文法理解の生涯発達過程(中川,2010)と比較すると、全般的な遅滞と、受動文や助詞・比較表現の理解に困難が示され、その結果をInternational Society of Neuropsychology 40th annual Meeting(2012)で報告した。また、広汎性発達障害児・学習障害児・ADHD児・聴覚障害児などコミュニケーションに障害のある児童の日本語理解に困難が示される項目を検討した結果、コミュニケーション障害児全体を通じて、受動文と助詞理解に困難が示され、その結果を日本発達心理学会第23回大会(2012)で報告した。さらに、学習障害児やADHD児におけるコミュニケーション障害と記憶障害の関係を現在検討中である。次年度はこれらの結果をまとめるとともに、コミュニケーション障害児の障害領域と残存能力を考慮して、一人ひとりの能力に対応した改善・克服のための教育支援を検討する。(2)コミュニケーション障害の認知基盤と教育支援方法の開発(3)J.COSS日本語理解テスト改訂版の開発 コミュニケーション障害と認知基盤の関係を評価し、教育や医療、福祉の領域で実用性あるテストを開発するためJ.COSS日本語理解テストと記憶テストを合わせたiPAD版ソフトウェアを開発した。次年度は健常児とコミュニケーション障害児を対象にiPAD版テストの実用性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は広汎性発達障害児・学習障害児・ADHD児・聴覚障害児などコミュニケーションに障害のある児童を対象に日本語理解力を横断的に調査した。その結果から聴覚障害児における書記日本語理解力の特質が示唆された。また、コミュニケーション障害児全体の困難度の問題として共通性が示唆されその結果をInternational Society of Neuropsychology 40th annual Meeting(2012)と日本発達心理学会第23回大会(2012)で発表した。次年度はこれら学会発表データを精査して論文にまとめる予定である。 次に、学習障害児・ADHD児における日本語理解力と認知基盤の関係を調査し、短期記憶と作業記憶の問題がコミュニケーション障害と関係があることが示唆された。そのため、これらテストの iPAD版ソフトウェアを開発し、その実用性を次年度に検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) コミュニケーション障害児・者における日本語理解力の横断的調査(2)コミュニケーション障害と認知基盤障害の関係の分析にもとづく教育支援の開発 広汎性発障害児や、学習障害児、ADHD児、聴覚障害児、認知症高齢者におけるコミュニケーション障害とその認知基盤の横断的調査を継続する。特別支援学校と特別支援学級、高齢者施設にて、J.COSS日本語理解テストとさまざまな神経心理学的検査を実施し、コミュニケーション障害の特異性と共通性、言語発達水準、視覚聴覚入出力、短期記憶、作業記憶、注意集中力、処理容量、社会性の関係を調査する。また、日本語理解の発達水準や誤反応分析、認知基盤の障害の評価結果をもとに、特異的なコミュニケーション障害を示す障害児と高齢者を対象に発達段階や残存機能を考慮した支援を個別に実施する。 (3)J.COSS日本語理解テスト改訂版の開発 iPAD版として開発したJ.COSS日本語理解テストと記憶テストの実用性を検討する。また、J.COSS日本語理解テスト(中川他,2010)に含まれる項目から、日本語としては必ずしも重要ではない5項目を削除し(not only but also・neither nor・but notなど)、新たに授受関係(れる・られる・もらう)や助詞関連項目(格助詞・終助詞)、認知基盤(処理容量・社会性)を評価する項目を追加したJ.COSS日本語理解テスト改訂版を開発し、横断的調査を行う。さらに、標準化テストを用いて、広汎性発障害児や、学習障害児、ADHD児、聴覚障害児、認知症高齢者を対象に個別検査を実施し、教育や医療、福祉などさまざまな領域での実用性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費としては、J.COSS日本語理解テストを全国各地の聾学校や特別支援学校、養護施設において調査を実施するため、携帯に便利なiPAD版のテストを開発した。その実用性を検討するため、次年度はiPADを複数台購入し、特別支援学校にて調査を行う予定である。 旅費交通費としては、調査結果を日本発達心理学会・高次脳機能障害学会など日本国内で発表するとともに、コミュニケーション障害支援関連の国際学会(International Society of Neuropsychology)などでも発表を予定しており、そのための旅費宿泊費が必要となる。また、障害児・者の調査にあたっては、学生アルバイトを採用し、国内調査協力施設までの旅費・宿泊費・謝金が必要となる。さらに、収集した500名以上のデータを入力・分析するために学生アルバイトを雇用し迅速なデータ分析と解析を行なう予定である。なお、年間1本の論文投稿を予定しており、英文校正のための費用も計上する。 その他については、最近の研究動向や知見を得るために、新たに書籍や論文を購入・取り寄せることで、新たな知見と効果的な教育支援を検索するために必要である。 なお、旅費に係る費用を抑えた結果、次年度繰越金が発生した。繰越金については物品費として、携帯用PCやiPADの購入費とする計画である。
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