研究概要 |
最終年度は,前年度に開発したPCシステムを用いて,綱要集の形式を持つ高校「倫理」教科書を対象に,その読解学習における概要把握に着目し,その基底にある構造方略の使用支援に用いる標識化の有効性を検証した。高1と大学生がともに120人参加した実験において,構造方略の未熟達群と熟達群の両群を見出し無条件と見出し有条件に割り振った。材料は高校「倫理」教科書より絶対他力思想の形成過程を概説した12文のテキストであった (見出し有群には第1,5,9文に見出しが挿入)。文を1文ずつランダムにPC画面上に提示し,マウスを使って配列させた。自己ペースで文配列をさせ,配列の体制化過程を時系列にPCが記録した。その後,理解度評定,再生課題と再構成課題を実施させた。 まず,体制化連得点,体制化率得点,ランク内修正数の分析から,大学生の未熟達群では見出しの効果が体制化過程で認められ,序盤から終盤を通じて正しいランクに文を配列する割合が高まったが,これはMeyer et al (2012) の仮説を支持した。ところが,高校生では熟達群で見出しの効果が部分的に認められたが,未熟達群で効果は認められなかった。ここから,高校生では大学生とは対照的に,未熟達群に見出しを提示しても,読解過程を通じて見出しから恩恵を受け難いことが示された。次に,理解度評定,再生課題と再構成課題の分析からは,読解の体制化過程を通じて見出しから受けた効果がその後も引き継がれていき,高校生と大学生とで異なることが示された。大学生とは違って,高校生の未熟達群は見出しの恩恵を受けがたく,理解度評定の結果を見る限り,学習目標の達成にまで引き継がれることが示された。 総じて高校生は,熟達群でも標識化による支援の有効性の受給が難しく,本研究はこの受給メカニズムを解明する基礎資料となった。
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