本研究の目的は,本来的に非対称な関係である前言語期の乳児と親とのコミュニケーションが,どのように成り立ち,発達的に変化するかを検討することである。親は,前言語期の乳児に対して,非対称を補うかのように代弁を行うが,本研究では代弁に焦点化してコミュニケーションの成り立ちと変化を追求する。また,そこから代弁という文化的声の,乳児には内化,親には外化のプロセスを検討する。声とは,ヴィゴツキー派の社会文化的アプローチにおいて,バフチン(2002)やワーチ(1991)が音声物理的な声ではなく,人格として概念化したものである。 日本および米国の親子から得られたコミュニケーション場面について縦断的データから,縦断的かつ通文化的観点で分析を行う。前年度までに,国内および米国におけるデータ収集が終了し,国内データについては,データ分析も終了し,論文を作成した。米国データについては,分析を開始していた。 本25年度は,国内データを基準として,米国データの分析を進めた。米国の親子も日本の親子同様,代弁を用いられていることが見いだされた。その一方,日米で代弁の用い方が異なる場面も見られた。また,国内データについての論文は修正の後公刊された。当該論文では,親の用いる代弁に12の機能があることを見いだし,代弁は子どもの意図や感情の言語化など子どものために用いられるだけでなく,初期の不安定なコミュニケーションを言語化することで心理的距離化をはかり親自身が情緒調整できるといった親のためにも用いられていることを明らかにした。なお,本研究は,海外共同研究者Valsiner教授との打ち合わせを行い,ここまでの分析結果の報告および論文化のための理論補強をした。
|