本研究は、現代青年の精神健康向上を考える一連の研究に位置し、近年、社会的にも問題となっている現実生活体験の減少が青年期のパーソナリティ形成や社会適応に及ぼす影響に焦点を当てたものである。本研究では、特に児童期の現実生活体験―すなわち、実際に体を使い実物に触れる体験、直接的な対人交流体験などリアルな日常生活・遊び体験―に注目し、その特徴を量的及び質的に把握するとともに、それら「現実生活体験」「遊び体験」がその後の「現実感の希薄さ・解離傾向」「共感性」「コミュニケーション能力」にどのような影響を与えているかについて青年期を対象に検討した。また、これらの生活体験が児童期の外傷体験の保護要因として機能するかについても検討した。 前年度までには「現実生活体験尺度」および「遊び体験尺度」を作成し、現実生活体験・遊び体験と精神的健康の関連について学会発表を行った。日本心理臨床学会大会等で①現実生活体験の尺度作成、②遊び体験尺度の作成、また、両尺度を用いて③現実生活体験や遊び体験の実態調査、さらに、④これらの体験と青年期の社会適応との関連について、⑤これらの現実生活体験が心的外傷体験の抑止要因となりうるかの検討について、それぞれ口頭発表を行った。 当該年度においては、前年度までの研究結果を踏まえ、「現実生活体験尺度」及び「遊び体験尺度」に修正を加え、その改訂版を作成した。また、改訂版の尺度を用いて新たに現実生活体験・遊び体験と青年期の社会適応との関連について検討を行った。この結果については今年度、日本心理臨床学会等で発表予定である。また、当該年度においては、一般青年群と非行臨床群との現実生活体験、およびそれらの体験が社会適応に及ぼす影響の比較を目的として、非行少年版の「現実生活体験尺度」「遊び体験尺度」の作成も行った。
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