研究課題/領域番号 |
23530890
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
松田 修 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (60282787)
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キーワード | 認知症 / アルツハイマー病 / 権利擁護 / 認知機能障害 / 心理アセスメント / 高齢者 / 知能 / 判断能力 |
研究概要 |
平成24年度は,①認知症が高齢者の判断能力に与える影響に関するデータ収集と分析の継続,および②契約締結能力における処理速度(prosessing speed)の影響に関するアナログ研究を中心に行った。 ①の研究成果の一部は,Dementia Japan第26巻『認知症高齢者の権利擁護と意思決定能力:心理測定によるアプローチ』,および第27回日本老年精神医学会シンポジウム『多様な臨床場面における様々な精神療法的アプローチ:私たちの試みから: 高齢者の精神医療における心理学の役割,認知機能に注目した高齢者支援の試み』と題したシンポジウムにて報告した。これらの報告の中で筆者は,認知症高齢者の権利擁護における能力評価の課題について知能研究との関連で問題提起した。同年齢集団における相対的位置による能力評価法を高齢者の判断能力評価に適用する際の留意点や,意思決定のプロセスにおける結晶性知能,流動性推理,ワーキングメモリー,処理速度の影響について報告した。 ②については,現在,投稿準備中である。②の研究では,前年度の研究成果に基づいて処理得度と契約締結能力,特に,契約書の内容理解能力とWAIS-IIIの処理速度指標(PSI)得点との関連を分析した。その結果,契約書理解度テストの成績はPSI得点と有意に関連することが示唆された。PSIは加齢によってもっとも顕著に低下する能力指標である。また,PSIはアルツハイマー病によってさらに低下する可能性も示唆されている。PSIは,認知症高齢者の権利擁護に関わる能力評価における重要な指標となる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の成果に基づくリサーチクエスチョンである「処理速度が契約締結能力に与える影響」に関するアナログ実験を実施し,仮説を支持する結果が得られた。すなわち,WAIS-IIIのPSI得点と契約書理解度テストの成績との間に有意に関連が認められ,PSIの高い被験者は,低い被験者よりも,契約書の内容をより正確に理解していることが示唆された。以上の点は,昨年度の研究から得られた仮説を支持する結果である。また,PSIは一般臨床の現場でも利用可能であることから,この研究成果は認知症高齢者の権利擁護に関わる臨床評価に応用可能な成果であると思われる。以上の点から,研究目的の達成に向かって概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度のまでの研究成果をさらに進展させ,認知症が高齢者の判断能力に与える影響のより詳細な検討や,そのメカニズムに関するアナログ研究に取り組み,最終的には,認知症高齢者の権利擁護における能力評価の指針を提案したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,データ解析や実験など,高度に専門的な研究補助を行う人材への謝金,研究成果公表に関わる費用,最新の統計解析ソフトの購入,および会議費などに研究費を使用する予定である。
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