研究課題/領域番号 |
23530898
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研究機関 | 兵庫教育大学 |
研究代表者 |
遊間 義一 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 教授 (70406536)
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研究分担者 |
金澤 雄一郎 筑波大学, システム情報工学研究科(系), 教授 (50233854)
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キーワード | 受刑者の反則行為 / 成長混合モデル |
研究概要 |
本研究は,女子受刑者の刑務所内での反則行為を対象として,その促進・抑制要因を,受刑者の個人的属性と,収容率などの刑務所内での環境要因や処遇手法の相互作用という観点から検討しようとするものである。 計画段階では,平成23年度中に,反則行為に対する個人的要因と,環境要因等との交互作用を検討し,平成24年度中に,成長混合モデルを用いて,反則行為には,どのようなパターンが存在するのかを検討する予定であったが,予備的なデータ解析の結果,この順序を逆にし,平成23年度に成長混合モデルの検証を行った。この結果は,平成24年度9月の日本犯罪心理学会(入所期間による女子受刑者の反則行為の生起パターン)及び同年11月のアメリカ犯罪学会(“Trajectory groups of rule-breaking behaviors in Japanese women prisons”)として発表した。日本犯罪心理学会(犯心)発表の研究により,日本の女子受刑者の反則行為の生起パターンは,成長混合モデルに基づくと,「高反則群」と「低反則群」との2群に区別されることが分かった。11月のアメリカ犯罪学会の発表では,さらに,調査時点の刑執行率が80%を超えると,反則行為が生じる確率は急激に上昇することもデータ解析の結果分かったことを受けて,分析の対象を執行率80%未満の者に絞って解析を行ったところ,犯心とほぼ同様の結果が得られた。 これらの結果を受けて,平成24年12月以降は,反則行為の生起パターン別に,環境要因や矯正処遇の効果を検証するための解析を行っている。解析においては,受刑者の生活の中心となる,作業工場ごとに矯正処遇の効果が異なっている可能性が高いので,これを評価するために,マルチレベル分析を用いている。予備的な解析では,「高反則群」において,処遇効果が高い傾向が認められている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画段階では,平成23年度中に,反則行為に対する個人的要因と,環境要因等との交互作用を検討し,平成24年度中に,成長混合モデルを用いて,反則行為には,どのようなパターンが存在するのかを検討する予定であったが,予備的なデータ解析により,受刑者を「違反頻回者」と「そうでない者」とに区別して分析すると,反則行為に対する収容率の影響は認められないという結果を得た。 この結果から,収容率等の効果を検証する前に,頻回者とそれ以外の者のと間に,反則行為の異なったパターンが統計的に見いだせるか否かを検証する必要があると考えた。そこで,平成23年度の後半から平成24年度にかけては,成長混合モデルを用いて,全収容期間中の反則行為の推移のパターンを見いだす試みを行った。その結果,日本における女子受刑者の反則行為のパターンには,「高反則群」と「低反則群」の2群が見いだせることが分かった。これらは,平成24年度の日本犯罪心理学会及びアメリカ犯罪学会において発表した。 現在は,この結果を受けて,「高反則群」と「低反則群」とで,収容率や矯正処遇等の反則行為に対する効果にどのような違いがあるのかを検討中である。予備的な解析では,成長混合モデルによって区別された群(すなわち反則行為に至りやすい個人の傾向)ごとにみると,作業工場ごとに反則行為に対する矯正処遇の効果が異なっていることが見いだせており,これは本研究の目的である「反則行為に対する個人的要因と,環境要因等との交互作用の検討」が達成できる可能性が高いことを示していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られた結果,すなわち,①成長混合モデルによって,受刑者の反則行為の推移をみると,「高反則群」と「低反則群」の2群に識別できること,及び②この2群別に反則行為を応答変数とするマルチレベル分析を行うと,反則行為に対する矯正処遇の効果や作業工場の効果が異なっていること,の2点をより精密な数理モデル(係数項をランダム化して個人差や環境差をモデル化する)を用いて,検証する予定である。 この結果は,昨年同様に,日本犯罪心理学会,アメリカ犯罪学会等で発表し,専門家の意見を徴し,さらに精緻で現実に適合したモデル化へとつなげていく予定である。 さらに,研究の最終段階として,日本心理学会やアメリカ犯罪学会等への論文投稿を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,研究の最終年度であるので,これまで以上に精密な数理モデルを用いた解析を行う予定であり,これらのモデルの計算にはかなりの時間を要すると予想されるので,性能のよいコンピュータを購入し,研究の効率化を図る。当初の計画ではコンピュータは平成23年度に購入予定であったが,できるだけ現有のコンピュータを使用し,性能が統計計算に追い付かなくなった段階で新規に購入することとしたため,平成25年度の購入予定とした。現在の数理モデルでも,現有のコンピュータでは,一つのモデルを計算するのに,1日以上を要する場合もあることから,高性能なコンピュータの導入は,平成25年度の早期に実施する予定である。 さらに,研究の最終段階として,アメリカ犯罪学会等での発表だけでなく,学会誌への論文投稿を行う予定である。そのためのネイティブ・チェックなどの費用も必要であり,これらの支出も予定している。
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