本研究は,女子受刑者の刑務所内での反則行為を対象として,その促進・抑制要因を,受刑者の個人的属性と,収容率などの刑務所内での環境要因や処遇手法の相互作用という観点から検討しようとするものである。平成25年度は,前年度までに行った成長混合モデルを用いた解析結果を踏まえ,反則行為に対する環境要因や矯正処遇の効果を検証するための解析を行った。具体的には,解析においては,受刑者の生活の中心となる,作業工場ごとに受刑者一人当たりの反則行為の頻度が異なっている可能性が高いので,これを確認し,その後工場ごとの反則行為の頻度の違いを説明する変数として,工場における稠密性を導入したモデルを検証した。その結果,(a)工場別の反則行為の頻度は異なること,(b)この傾向は,個人の反則行為歴やIQなどの個人的な特性の効果を統制した後でも存在すること,(c)工場ごとの違いを説明するために,工場の稠密度(工場における作業人員/工場の定員)を説明編巣として導入すると,工場ごとの違いはなくなること,が分かった。このことは,工場ごとの反則行為の頻度の違いを工場担当職員の力量の差によって説明しようとしてきた従来の見方(「工場担当制論」)は妥当でなく,むしろ工場の過剰収容状態が受刑者個人の反則行為の生起に大きな影響を与えてきていることを示している。 この結果は,平成25年度9月の日本犯罪心理学会(発表題目「女子受刑者の反則行為に対する処遇環境の効果-階層的ポアソン回帰モデルによる収容率及び工場規模の反則行為に対する効果の検証―」)及び同年11月のアメリカ犯罪学会(発表題目“On the effects of psychological and educational treatments on Japanese female prisoners' rule-breaking behaviors”)として発表した。
|