市井担当部分:治療効果に関連する脳機能部位と血流の変動パターンの特定を目指すことを目的とし、EMDR標準プロトコル実施中の活動を22チャンネル光トポグラフィ装置(ETG-4000 日立メディコ製:以下NIRS)を用いて測定した。研究計画の同意を得られた右利きの健常成人4名を対象とした。過去に体験された外傷的な出来事の聴取、臨床評価尺度(IES-R、DES-II、NCQ-IF、JBCSS)を施行した。測定機器を装着し、体験に伴う苦痛の度合い(主観的障害単位:SUD、最大の苦痛を10とする)が0~1になるまで介入を行い、その際の前頭部の血中ヘモグロビン濃度[oxy-Hb]の変化を測定した。 外傷的な出来事の内容は、近親者との死別体験、職場での不適応、性被害であり、EMDR前後でSUDおよび臨床評価尺度は有意に値が減少した。[oxy-Hb]は、前頭葉付近、特に眼窩前頭皮質において生じ、外傷性記憶の想起に伴い急激に増加、その後減少する様子が観察されたことから、EMDRにおける外傷性記憶の処理の過程が脳血流に影響を与えている可能性が示唆された。 吉川担当部分:EMDRで用いられる眼球運動の効果を検証するために2つの実験を行った。実験1では、水平方向の眼球運動の有無によって安全な場所のイメージの変化にどのような違いが見られるかを測定した。大学生22名を対象に、二元配置被験者間計画の実験を行った結果、水平眼球運動条件は、安全感や穏やかさの程度が低下することが示された。実験2は、眼球運動の種類を以下の2種類に分けた。ひとつは滑らかな水平方向の動きの眼球運動で、もうひとつは急速に眼球を動かすものである。眼球固定条件も加え、3条件を用意した。大学生および大学院生15名を対象に、二元配置被験者間計画の実験を行った結果、眼球固定条件において、イメージをより深く体験する程度の上昇傾向が見られた。
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