研究課題/領域番号 |
23530909
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
藤井 義久 岩手大学, 教育学部, 教授 (60305258)
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キーワード | 生活不安 / 攻撃性 / うつ / 希死念慮 |
研究概要 |
平成24年度は、平成23年度の大学生を対象とした調査に引き続き、中学生526名(男子270名、女子256名)を対象にして、「中学生活不安尺度」の開発を行うとともに、その尺度を用いて、生活不安の関連要因の分析を行った。 初めに、項目分析及び因子分析(プロマックス回転)によって、「危機状況不安」(8項目)、「評価不安」(9項目)、「学校不適応」(7項目)という3つの下位尺度、計24項目から成る「中学生活不安尺度」を開発した。そして、各下位尺度ごとにクロンバックのα係数を算出したところ.80~.89、全体でも.82という値を得たことから、本尺度には一定の信頼性のあることが確認された。また、1要因分散分析の結果、DSRSによって測定された「うつ水準」が高い生徒ほど、「生活不安得点」が有意に高かったことから、本尺度には一定の妥当性のあることが確認された。 そして、開発された「中学生活不安尺度」を用いて、中学生の生活不安は、一般に学年が上がるにつれて有意に高まることがわかった。次に、生活不安の関連要因の分析を行った。まず、希死念慮と生活不安との関連性について一要因分散分析によって検討したところ、一般に「死にたい」という希死念慮傾向の強い生徒ほど、有意に生活不安水準の高い傾向が明らかになった。また、同様に一要因分散分析によって、攻撃性傾向が強い生徒ほど、有意に生活不安水準の高い傾向が明らかになった。そこで、さらに、攻撃の方向性に着目して、「中学生活不安尺度」の各下位尺度得点を説明変数、「内への攻撃性傾向」、「外への攻撃性傾向」の各要因をそれぞれ目的変数として、重回帰分析を行ったところ、標準編回帰係数(β)の値から、特に生活不安の強い中学生ほど、教師に対して怒りやすいことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度中に、青少年版生活不安尺度を開発し、その尺度を用いて、我が国における青少年の生活不安の現状、生活不安と攻撃行動との関連性を分析するという、当初の目的は、おおむね順調に達成できていると言える。その理由として、6点挙げておく。第1の理由は、公立中学の生徒526名、公立高校の生徒558名、計1000名以上という、当初の予定通りの青少年のデータを集めることができたことである。第2の理由は、我が国における中学生の生活不安を多面的に測定できる「生活不安尺度」を開発し、本尺度には一定の信頼性、妥当性が確認されたことである。第3の理由は、生活不安が外への攻撃性だけでなく、「希死念慮」や「抑うつ」といった内への攻撃性とも密接に関連していることが明らかになり、当初の研究仮説が裏付けられたことである。第4の理由は、平成23、24年度の研究成果の一部について、すでに大学紀要や学会誌等に投稿するとともに、発達心理学会等において精力的に発表していることである。第5の理由は、「大学生活不安尺度」の改訂も本研究の重要な柱であったが、現在、すべての大学において実施可能なように、類型論の立場から新たに大学不適応のタイプが明らかになるようにするなどの改訂作業を行っているところであり、平成25年10月頃に金子書房より発刊される運びになったことである。第6の理由は、わが国における青少年を対象とした生活不安に関する研究結果を参考に、国際調査実施に向けた準備を進めており、おおむね質問紙が完成したことである。現在、その質問紙を各国の言語に翻訳中であり、まもなく各国において実施できる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
すでに高校生調査も実施完了しているので、収集した高校生のデータを用いて、中学生調査と同様に、生活不安の因子構造や発達的変化、さらには生活不安の関連要因の分析を行うなどして、中学生と高校生で結果にどのような違いが見られるか検討する。 次に、中学生と高校生のデータを一緒にして、発達段階に関係なく共通に利用できる「青少年版生活不安尺度」の開発及び標準化作業に取りかかる。そして、その尺度を用いて、青少年の生活不安の現状、特に生活不安の発達的変化や生活不安の関連要因の分析などを行う予定である。そして、最終的には、生活不安、怒り感情、攻撃行動との関連性についてパス解析を使って検討し、我が国における青少年の攻撃行動を生み出すメカニズムについて明らかにしていきたいと考えている。 それとともに、日本だけでなく、デンマーク、フィンランドの青少年をも対象にして、国際版生活不安尺度を開発し、その尺度を用いて青少年の生活不安に関する国際比較調査を実施し、国によって生活不安の現状がどのように異なるか明らかにするとともに、生活不安と攻撃行動との関連性について国を超えて一貫した傾向が見られるかについても明らかにしていきたいと考えている。 なお、今までの研究成果については、東北大学で開催予定の感情心理学会や法政大学で開催予定の日本教育心理学会等において発表することとしている。また、日本発達心理学会誌への投稿も予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、国際調査の実施及び研究成果の取りまとめ、研究成果発表を中心に行う予定である。そのため、調査研究旅費、学会発表旅費の比重が高まるものと思われる。特に、「国際版生活不安尺度」を開発するに当たり、現在の子供達の心の状況や課題、支援の在り方について、東京の関係機関や専門家等から聞いたり、本研究に関連する先行研究や最新の研究動向について調べることも必要である。そのために、次年度は、調査および研究旅費と、調査実施分析に係る経費が多く必要となってくると思われる。従って、本年度の研究費の残金と次年度の研究費を用いて、関係機関等に対する聞き取り調査および先行研究分析、本調査の実施、国際調査実施に向けた準備等、計画通り、滞りなく進めていきたいと考えている。なお、国際調査実施に当たっては、調査実施協力国の法律を遵守し、子どもの人権を最大限に尊重する観点から、本人からだけでなく、保護者の調査協力の同意のあった子どもにだけ調査を実施する予定であることから、国によっては調査協力者数が当初の予定より下回ることも予定される。その場合は、改めて別の地域或いは学校に調査をお願いすることになるので、平成25年度の研究実施計画に伴う研究費の使用計画については今後流動的な要素もあるが、予定通り研究が進むよう、最大限、努力していきたいと考えている。 なお、平成24年度研究費において残金が発生した理由は、学生アルバイトを雇うことなく、実施した質問紙調査のデータ入力を研究代表者本人ですべて行ったため、当初計上していた謝金を節約することができたことによる。平成25年度は、この節約して残った研究費も有効に活用しながら、さらに大規模な調査実施及び研究成果発表を積極的に行っていきたいと考えている。
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