研究課題/領域番号 |
23530910
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
小川 成 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90571688)
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研究分担者 |
中野 有美 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60423860)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | パニック障害 / 認知行動療法 / QOL / 効果予測因子 |
研究概要 |
パニック障害は年間有病率約2%の多頻度疾患であり深刻な機能障害やQOLの低下を伴う場合もあり適切な治療が必要である。しかし、重要なアウトカムであるQOLの認知行動療法施行前後での変化に関する研究はほとんどない。我々は本研究においてパニック障害に対する認知行動療法施行後のQOLの変化を予測する因子について検討していくこととした。 研究デザインはコホート研究(追跡研究)である。DSM-IVのパニック障害と診断され、認知行動療法を受けるすべての患者様が対象である。今年度は以下のような介入および評価を施行した。 1. 介入 3人ずつのグループによる認知行動療法を1回約2時間×10回施行。オーストラリアのNew South Wales大学の不安抑うつ研究所の治療プログラムを参考にしたマニュアルを使用している。プログラムは以下の5項目からなる。(1)パニック障害に対する心理教育(2)呼吸コントロール(3)不安を惹起する認知を是正するための認知再構成(4)段階的実体験曝露(5)身体感覚曝露。 2. 評価 診断を確定し併存疾患を確認するために、Structured Clinical Interview for DSM-IVという半構造化面接を施行して認知行動療法への適応を評価した。また、治療前後でパニック障害の重症度を評価するため(i) Panic Disorder Severity Scale(PDSS)を施行した。また人格特性を評価するためベースラインで(ii) NEO Five-Factor Index(NEO-FFI)を施行した。(iii)QOLを評価するため、治療前後および3か月後、12か月後に12-item Short-Form Health Survey (SF-12)を施行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は2001年以降パニック障害専門外来にて認知行動療法を提供しており、そのノウハウを確立しているとともにスタッフの育成も継続してきている。基本的に新たな問題は生じないものと考える。 まず介入については、パニック障害の認知行動療法の経験が2年程度のセラピストを中心に施行している。定期的なケースカンファレンスにてスーパービジョンおよび問題点等の修正を図っており問題なく施行できているものと考える。評価についても自記式評価尺度については全例回収できており、他者評価尺度については評価方法のチェック等を定期的に施行しており、これも問題なく施行できていると思われる。また、データの保管等についても当初計画通りにできており、大きな問題はないと思われる。 1年間では20名弱の患者様に認知行動療法を施行している。新たな申し込み者数が減少したため、当院および関連病院や関連クリニックに協力を仰いだところ再びエントリー数は増加に転じた。またスタッフの転勤等により一時施行可能なグループ数も減少したが、この1年で数名認知行動療法を施行可能なセラピストを養成することができ、必要なグループ数は確保できたものと思われる。セラピストの養成および研修目的では月2回の名市大認知行動療法研究会にて症例検討会やワークショップを開催してきた。さらにセラピストのレベルアップのため学会出席も積極的に進めており、平成23年度は認知療法学会、行動療法学会、不安障害学会、アメリカ行動認知療法学会等とそれらのワークショップに参加した。また後述のようにポスターおよび口演にて発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
データ収集に関して、近年パニック障害患者における認知行動療法希望者数は全体としては増加しているものの、当科における希望者数は減少傾向である。これは、今までのパニック障害の認知行動療法を受けた患者様は多くがすでに当科通院中の患者様であり、再来患者様の中で認知行動療法施行可能な方はこの10年ほどで概ね治療を終了しており、新規のエントリーは新患の患者様が中心であることや、近隣のクリニック等認知行動療法施行可能な医療機関が増加していることなどが原因と考えられる。よって、エントリー数を増やすため関連病院や関連クリニックへの協力要請を引き続き行う。また、病院ホームページや同門会報等を利用した広報活動にも積極的に取り組んでいく予定である。。 また、グループ数も増加させる必要があり、セラピストの育成も引き続き行う。これに関しては次年度よりパニック障害等の不安障害に対する認知行動療法の研修コースを開始し、学外も含めたセラピスト希望者を募集して、セラピストの増員を図る予定である。また、セラピストの養成および研修のために症例検討会やワークショップも平成23年度以上に力を入れていくため、名市大認知行動療法研究会は月2回から月3回のスケジュールに変更することとなっている。その他学会参加や学会発表もこれまで通り進めていく。 次年度はデータ数も増え、データ入力や整理についても力を入れていくこととなる。論文化へ向けてこれらに注力していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に引き続き、パニック障害の認知行動療法施行時にはフリップチャート、宿題記入用のノート等を使用しており、セッションに関連する消耗品費は引き続き必要になると思われる。 また、同様にデータ収集に関し症状やQOL等の検査用紙はコピー作成する等しているためこれらに関連する消耗品費も必要となる。また、3か月後および12か月後のデータの収集は郵送によるアンケート形式であり、通信費が必要になるほか、回収率の向上を図るための謝礼として図書券等のノベルティも必要と考えられる。 次年度にエントリー数を増やすためには、それに対応するための認知行動療法施行可能なセラピスト数の確保とグループ数の確保が必要となる。セラピスト養成に関しては、上述のように次年度よりパニック障害等の不安障害に対する認知行動療法の研修コースを開始するため、それに関連する費用が発生する予定である。また、セラピストのスキルアップのため、学会やワークショップへの参加が必要となるため学会参加費や旅費等が必要となる。次年度は上述の認知行動療法研修コースが開始すること等によりセラピストが増員されると考えられるため、今年度以上に費用が必要と思われる。また学術雑誌の購読や認知行動療法に関する基礎的な文献の購入も必要となると思われる。 さらに、次年度はデータ数の増大に伴いデータ入力等の人員の確保が必要となると考えられ、それに対する人件費が必要と思われる。
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