研究課題/領域番号 |
23530914
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
堀毛 裕子 東北学院大学, 教養学部, 教授 (90209297)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 健康心理学 / ポジティヴ心理学的介入 / 乳がん患者 / sense of coherence / well-being |
研究概要 |
本研究は、平成23年度からの3年間で、ポジティヴ心理学の視点から、sense of coherence(首尾一貫感覚;SOC)や全体的なポジティヴィティを高めるグループ介入プログラムを開発し、乳がん患者を対象として入院および外来の現場における介入実践を行おうとするものである。初年度には、従来のSOC研究や問題点の整理と並行してポジティヴ心理学における介入技法等も参照しつつ、実際の介入プログラムを開発し、試行的な介入を行うことを予定していた。 しかし平成23年度は、達成度の項に示す通り、前年度末に発生した東日本大震災により勤務校も大きな被害を受け、物理的な研究環境が整うまでに長時間を要したほか、被災地の臨床心理士として宮城県内の被災者の心理支援に関わるという状況もあり、本研究に向ける時間は大幅に制限されることとなった。そのため、研究実績は以下のような範囲にとどまらざるを得なかった。 関連する国際学会への参加などにより、研究や実践に関する最新の情報収集を行い、また実践の場となる協力病院のスタッフとの面接などを通して、グループ介入に関する実際的な検討を行った。さらに、当該病院の乳がん患者会に参加してメンバーを対象とする調査を行い、グループ介入の必要性やタイミングなどについて患者自身の貴重な意見を得ることができた。それによると、心理的支援の必要性はほぼ全員が強く感じており、カウンセラーによる個別面接への希望は、がんの診断確定後や手術後、さらに化学療法の前後などの時期に高い。しかし個別面接以上に、患者同士のグループによる話し合いや学習機会を持つ、といった形での心理支援が強く望まれていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成23年3月11日に発生した東日本大震災、およびその後の4月7日の大規模な余震により、宮城県にある勤務校も大きな被害を受けた。研究室は、書籍や書類が棚から落ちて破損・散乱し、机から落下した電話やパソコンがそれに埋もれるようなありさまとなったため、その片づけなど物理的な研究環境をある程度整えるまでに長時間を要したほか、大学カウンセリングセンター所長として、震災の心身への影響にかかわる学生支援にも力を注いだ。加えて、折から宮城県臨床心理士会長の立場にあり、臨床心理士に対する自治体等からのさまざまな支援要請に対応するなど、宮城県内の被災者の心理支援に関して多大な時間を要するという事情もあって、研究に向けることのできる時間は大幅に制限されることとなった。 また、介入実践について協力を得る予定の病院は福島県内にあり、比較的近くには放射線のホットスポットとされた地域もあった。そのため、震災による直接的な建物等の被害のほか、患者の通院範囲には放射線の影響があるとされる地域も含まれているなど、当該病院にはさまざまな形で震災の影響が及んでいることが推測された。したがって、震災に対する直接的な支援ではない本研究の実施については、しばらくは様子を見ながら検討するなどの配慮も必要と思われた。 このように、東日本大震災の発生とそれに伴う放射線被害という例外的な状況のもと、平成23年度に着手できた作業とその成果は限られたものとならざるを得ず、実施できたのは予定の半分弱程度に止まった。
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今後の研究の推進方策 |
前項の通り、平成23年度の特殊事情から着手できなかった介入プログラムの開発と試行を含め、今後2年間で当初の研究を推進していく。 すなわち、ポジティヴ心理学の視点から、SOCや全体的なポジティヴィティを高めるグループ介入プログラムを開発し、乳がん患者を対象として入院および外来の臨床現場における介入実践を行う。 このような心理的援助の方法が心理的および身体的なwell-beingの改善に有効であることを確認するために、SOCとともに全体的なwell-beingの変化について、尺度を用いた数量的な評価を行うと同時に、できる限り面接等によって患者自身の主観的な評価を求めることで、量的側面と質的側面の両面からエビデンスを得ることを目指す。 また、本研究課題の申請時点では予想もつかなかったことであるが、がんという辛い体験を乗り越えるためのポジティヴ心理学的視点からの介入方法は、がんと同様に予測不可能な、今回のような災害の被災体験に関わる心理的支援にも生かすことが可能と思われる。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画の第二年目となる平成24年度には、介入プログラムの開発と試行の後に、グループ介入の実践データの蓄積を図っていく。 平成23年度に実施した患者会調査の知見なども踏まえながら、術後の入院中の時期、外来通院となって化学療法を始める時期、さらに一応の治療を終えて経過を見ていく時期等の数回にわたるグループ介入を行い、経過を追う予定である。効果判定のために、グループ実施ごとに尺度による数量的評価と行うとともに、筆記や面接によってできる限り患者自身の主観的病気体験を把握する。 データの蓄積には、対象病院における診療・手術件数や適用患者数の状況といった外的条件が関係するが、放射線の影響等による病院自体の患者数減少も危惧されるため、エビデンスを得るために必要なデータ数を確保するには、本格的介入を行う期間をできるだけ長く設定する必要があると思われる。 本来は平成23年度に予定していた病院現場での作業のためのモバイル機器類の整備をはじめ、平成24年度の中心課題であるグループ介入実践に関わる消耗品などの物品費、資料整理等に関わる謝金、協力病院への交通費に加えて関連学会等への参加による資料収集の旅費などが、予定される支出である。したがって、平成23年度に実施できなかった作業に関わる残額に加えて、当初に予定していた平成24年度の作業のための経費が必要となる。
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