研究課題/領域番号 |
23530914
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
堀毛 裕子 東北学院大学, 教養学部, 教授 (90209297)
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キーワード | 健康心理学 / ポジティヴ心理学的介入 / 乳がん患者 / sense of coherence / well-being |
研究概要 |
本研究は、ポジティヴ心理学の視点から、sense of coherence(SOC)や全体的なポジティヴィティを高めるグループ介入プログラムを開発し、乳がん患者を対象とする現場での介入実践によりその効果を確認しようとするものである。しかしながら初年度には、前年度末に発生した東日本大震災とその後の余震に伴い、研究成果はきわめて限られたものとならざるをえなかった。その後、協力病院における日常業務との兼ね合いなども考慮しつつスタッフと綿密な打ち合わせを繰り返し、乳がん手術直後から1年後までの間に計4回の介入を予定して、計画の2年目にあたる平成24年度末から具体的な介入を開始している。 中心となるポジティヴ介入は手術直後の初回介入であり、おもにLyubomirskyの方法に準じて親切行動またはよいこと探しを4~6週間実行することを課題とした。2回目以降の介入もポジティヴィティを高めることを基本とするが、他方、あくまで一般病院の現場でスタッフが実施可能であることを軸として、参加者の話し合いの流れを見ながら、たとえば退院時オリエンテーションのような情報提供も組み込むなどの工夫を行っている。 平成25年度は、対象者のほとんどがまだ追跡途中で1年後の最終介入にまでは至っておらず、最終的な成果が得られる段階にはない。しかしながら、たとえば手術前と、手術後にポジティヴ介入を実施した直後のPOMS得点を比較すると、介入後は「怒り・敵意」が減少して「活気」が増加することなどが見出されている。また介入に関する対象者の関心は高く、病気体験を十分に語ることや、辛い中でもポジティヴ感情を大切にする方向付けが、有益と受け止められていることがうかがえる。これらの知見の一部は、The Third World Congress on Positive Psychologyや日本健康心理学会第26回大会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度実績報告書および補助事業期間延長申請書に記載した通り、東日本大震災の影響により初年度にはほとんど研究を進めることができなかったため、およそ一年分の作業の遅れがある。そのため、現在もまだ継続的に介入を行って、データの蓄積を重ねている途中である。平成24年度末に初回介入を行った対象者についてはすでに一年後までの介入を終えているが、大部分はまだ継続中であり、また全体としてもう少し新規の対象者数を蓄積する必要がある。 さらに、このような一定の対象者数を確保することについても、現場での実践という本研究の特徴から、協力病院における患者数・手術数などの現実的な事情により影響を受けている。協力病院では、本研究計画を立案していた数年前に比してこのところは該当患者数が減少しており、さらにさまざまな状況から週によって患者数や手術件数等には変動があり、同意の得られた対象者であっても体調や日程上の都合などにより予定通りに介入を実施できないこともあるため、1回の介入で得られるデータは少ない。 対象者1名に対して術後約1年まで介入を行う計画であるため、平成26年度においてもなお介入を継続することが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」に示した通り、該当患者数・手術件数などの協力病院の現場における外的条件の制約の中で、病院スタッフとの共同実践として可能な範囲で、現在もなおデータの蓄積を継続している。 補助事業期間延長申請が承認されたため、平成26年度中にできる限りの介入を行ってデータ処理を行い、成果をまとめる。その際には、ポジティヴ介入が心理的および身体的なwell-beingの改善に有効であることを確認するために、感情状態やSOC、さらには全体的なwell-beingの変化について、尺度による数量的な評価と同時に介入時に語られる患者の主観的な病気体験やポジティヴ行動の内容を検討することで、量的側面と質的側面の両面からエビデンスを得ることを目指す。 なお平成25年度中に得られた介入の成果については、平成26年度に開催される国際学会(The 17th European Conference on Personality)や国内学会などで報告を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
「達成度」の項で示した通り、東日本大震災の影響により初年度にほとんど研究を進めることができなかったため、予定していた作業はおよそ一年遅れている。平成25年度には、継続的に介入を行ってデータの蓄積を重ねてきたが、手術後一年まで介入を行うため、まだすべてを終了していない事例が多く、予定した対象者数もまだ満たしていない。 このような対象者数の確保や介入の実施については、現場での実践という本研究の特徴から、協力病院における患者数・手術数などの現実的な事情に影響される。協力病院では、本研究計画を立案した数年前に比して該当患者数が減少しており、さらにさまざまな状況から週によって患者数や手術件数等には変動があり、また同意を得た対象者であっても体調や日程上の都合などにより予定通りに介入を実施できないこともある。このような状況のため、協力病院への出張旅費や資料整理補助の謝金などを中心に、残額が生じている。 平成26年度には、介入の継続的な実施と成果のまとめが中心的な作業となる。そのため、従来同様に介入や研究打ち合わせのために訪問する協力病院への交通費に加えて、発表を予定している学会参加などのための旅費や参加費がおもな支出項目となる。また、介入補助や資料整理に関わる謝金、介入に関わる消耗品などが、研究遂行のために不可欠な支出である。
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