本研究は、乳がん患者を対象として、ポジティヴ心理学の視点から、個人のsense of coherence(SOC)や全体的なポジティヴィティを高めるグループ介入プログラムを開発し、入院や外来の現場における介入実践を通してその効果を確認しようとするものである。 平成23年度には、患者会の調査結果等に基づき、乳がん手術直後から1年後までの間の介入の時期を検討した。平成24年度には、協力病院との打ち合わせを繰り返しながら、ポジティヴ介入の具体的な方法や評価方法を検討・準備し、平成25年1月から現場での介入を開始してデータを蓄積してきた。なお、初年度は東日本大震災の影響で研究着手が遅れ、介入開始後には該当患者数が少ない時期があったことなどから、累積50名の参加者を得るまで、補助事業による研究期間を1年間延長した。 コアとなる初回介入は、手術から数日後の入院中に、病気体験に関する自由な話し合い・退院後の生活に関する看護師からの情報提供・ポジティヴ介入の3種類の内容を半構成的に実施した。ポジティヴ介入としては、おもにLyubomirsky(2007)の方法に準じて「親切行動」と「よいこと探し」のいずれかを選択させ、4~6週間実行することを課題として記録ノートを配布した。また手術から約1年後の介入はフォローアップとして、ポジティヴ行動・感情を軸としつつ、自由な話し合いと必要に応じた情報提供を含めて実施した。 現在までに手術後1年のフォローアップを終えたデータの分析から、初回のポジティヴ介入に不参加の場合、1年後に不安や敵意・怒りの感情が増大しSOCが低下するなどの知見が得られており、患者のwell-beingに関する介入の効果が確認されている。このポジティヴ介入は、一般病院の現場でスタッフが実施可能な方法であり、退院時オリエンテーションのような形で組み込むなど今後の活用が期待される。
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