本研究の目的は、中学生の心理社会的ウェルビィーングと怒りのコントロールの能力の関連を明らかにすることである。以下、5つの研究を行った。 研究1として、アメリカでカウンセラーを対象にインタビュー調査を行い、思春期の子どもにとって、カウンセラーとの信頼関係が怒りのコントロール学習の動機づけを高めることがわかった。研究2として、日本人中学生の心理社会的ウエルビーングと怒りのコントロールを測定するために、3つの尺度開発を行った。ウェルビィーングの社会的側面については思春期版人間関係健康性尺度、心理的側面については自己決定理論をベースとした思春期版心理的ウェルビィーング尺度、怒りのコントロールについては思春期版怒り建設的反応尺度を作成し、日本の中学生465名を対象に質問紙調査を行ったところ、各尺度の信頼性と妥当性は確認された。研究3として、思春期版心理的ウェルビィーング尺度の3因子「自律性」「有能感」「関係性」が中学生の怒りのコントロールや人間関係に及ぼす影響について検討した。その結果、「関係性」が高い中学生は、怒りを建設的にコントロールし、健康的な人間関係形成を築き、「有能感」が高い中学生はメンターとの関係性がよく、「自律性」が高い中学生は、友人およびグループ内の人間関係健康性が高いことがわかった。研究4として、怒りのコントロールプログラムを作成し、日本人中学2年生86名を対象に3回実施した結果、怒り建設的反応には効果がみられたが、心理的ウェルビィーングは有意差がみられなかった。そこで研究5で、大学生ボランティアによるメンタリングを実施したところ、中学生の心理的ウェルビィーングにポジティブな影響が示された。 これらのことから、中学生の暴力予防には、怒りのコントロール心理教育を行うと同時に、大学生によるメンタリングにより心理的ウェルビィーングを高めることでその効果が増すことが示唆された。
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