研究課題/領域番号 |
23530921
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研究機関 | 白百合女子大学 |
研究代表者 |
木部 則雄 白百合女子大学, 文学部, 教授 (10338569)
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キーワード | レジリエンス / 発達障害 / 対人関係 / 多角的アセスメント / 治療的介入 / 社会復帰 |
研究概要 |
昨年度から引き続き、研究代表者が携わる医療機関のデイケア施設で社会復帰プログラムに参加する利用者への心理アセスメントと継続的な治療的介入を実施している。今年度、社会復帰プログラムでは平均して約20人の利用者が活動しており、3名のソーシャルワーカーと1名の臨床心理士が利用者の支援を行っている。利用者は発達障害や精神疾患を抱えて社会参加が困難になっているが、そこには対象者のパーソナリティ、対人関係、認知機能的特徴が社会生活にうまく噛み合っていないという背景があると思われる。社会復帰プログラムの目的は、個人のペースで幅広い内容の軽作業を行ったり、集団活動に参加しており、社会場面に慣れ、自分自身を振り返ることで社会適応能力を身につけることである。本研究の心理アセスメントは、パーソナリティ検査や知能検査の結果を支援スタッフと共有することによって、利用者の特徴を理解し、活動の中で効果的な伝え方や接し方を見出す際に役立てる。また、利用者自身へのフィードバックでは、利用者が自分の特徴を理解し、振り返り、苦手な部分をカバーできるような工夫を一緒に考える情報を提供する。本研究は、そうした介入を通して利用者が具体的な成長を確認、実感し、自尊心を回復すること、さらにそのデータをレジリエンスの視点から分析して得た知見を、不適応状態に陥っている発達障害者が社会参加をするためのガイドライン作成に用いることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現段階の研究では、昨年度から引き続き、上記で述べた医療関連機関のデイケア施設において、社会復帰プログラムの参加者に心理検査を実施し、縦断的な観察と治療的介入を行っている。心理検査はパーソナリティ特性を理解するロールシャッハ検査、認知機能特性を理解し、発達障害的な側面を検討するWAIS-III知能検査、パーソナリティを自己概念や環境との関わりという視点で視覚的に理解するバウム検査を中心に行っている。さらに、昨年度までは、月一回のソーシャルワーカーの個別面と研究代表者(精神科医)の診察によって、集団場面における他者との関わり方や作業の振り返りを継続して行ってきたが、今年度は臨床心理士が利用者の相談業務を行い、対人的な葛藤といった心理面や個人の認知特徴を踏まえた具体的な作業方法を一緒に考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 今後は社会復帰プログラムの参加者への心理検査結果をまとめ、全体の傾向や個別の特徴を分析する。また、対象者に関して縦断的に実施してきた観察と治療的介入から変化の有無やそれに関連した要素を見出していく。 2. 上記分析結果から、社会不適応につながった環境要因と個人の発達上の問題を検討すると共に、集団活動の活動の中での変化や成長も取り上げ、レジリエンスに関連する可能性のある要素を供出する。そうした要素に関して先行研究を踏まえて精査し、レジリエンス質問紙を作成する。レジリエンス質問紙は発達障害の疑いのある成人で相談機関(白百合女子大学の発達臨床センターで実施された発達障害の予後調査研究(柳井2010)の協力者を検討中)に通所歴のある人を対象に予備調査を行い、修正を加えて作成する。レジリエンス尺度だけでなく被援助志向性尺度、居場所感尺度などを白百合女子大学発達臨床センターの利用者と医療機関のデイケア施設の参加者に実施し、比較検討を行う。さらに、対象者の中から協力者を募り、インタビュー調査を実施する。 3. レジリエンスにおける環境要因を理解するために、センター利用者の母親からも協力者を募り、レジリエンス尺度、母親と父親の関係性に関する尺度、インタビューを実施する。また、保育者のレジリエンスを比較検討するために、同様の調査を保育士(保育士の場合の関係性尺度では、同僚や上司との関係性を検討する)を実施する。その結果分析から、レジリエンスと環境要因の関連を検討し、社会不適応の状況にある人たちへの支援ガイドラインを作成する。 4. 発達障害者のレジリエンスの変化をより詳細に理解するため、トラウマや対人的な困難を抱える対象者に心理療法を実施する。援助者(セラピスト)との関係性と対象者のレジリエンスの変化を分析することによって、臨床現場においてレジリエンスを促進する援助方法のポイントを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は調査研究におけるデータ収集と分析にかかる費用が主となる。まず、心理検査の分析には、その精度を保つために専門家による指導が必須とされる。レジリエンス質問紙の実施では、作成のための予備調査、本調査のデータ入力に大学院生のアルバイトによる作業料など人件費がかかり、インタビュー調査では協力者への謝礼が必要である。
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