本研究は、発達障害を持つ人々が学校や職場における社会生活で困難に直面し、精神疾患やひきこもりにつながるという問題が指摘されていることから、青年期発達障害者のレジリエンスを検討することを目的とする。困難に直面した場合、どのように認知して対処するか、さらにどのような環境サポートを得られるかという点が重要であることから、下記の調査と治療介入を通して、困難な状態からレジリエンスを徐々に発揮する過程を検討した。 1) 白百合女子大学発達臨床センター利用者の予後調査(柳井)では、幼少期に通所していた発達障害児のうち青年期に入った164名の就労状況に関して追跡調査を行った。また、レジリエンスの環境要因に注目し、親への質問紙調査と面接調査を行った結果、親のレジリエンスと抑うつとの関係に有意な負の相関が見られたが、子どもの社会適応得点と親のレジリエンスとの間には有意な相関は見られなかった。青年期で精神科通院を続ける子どもの母親とそうでない母親との間では、レジリエンスの得点に有意な差が認められた。 2) 医療関連施設の社会復帰プログラムの利用者19名を対象とした調査(浅沼)では、ロールシャッハ検査を実施し、認知スタイルと対人関係、自己イメージを包括システムに基づき分析したところ、平均スコアと比べて対人理解や感情表出が苦手で、客観的な視点を持つことが困難なから、環境ストレスを感じやすいことが示された。また、個別ケースでは継続的な治療介入の結果、感情機能の活発化や作業能力の伸びなどの変化が認められた。 3) アスペルガー障害を持つ子どもへの精神分析的心理療法のケース(吉沢)では、メルツァーの自閉症児の心的次元論に基づく発達に着目し、治療の展開に従い、一次元性・二次元性の自閉的心的状況から三次元性の精神病状態を経て、四次元性という心性「ゆらぐ力」を育む過程を検討した。
|