研究課題/領域番号 |
23530926
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研究機関 | 山梨英和大学 |
研究代表者 |
田中 健夫 山梨英和大学, 人間文化学部, 教授 (20294986)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | いじめ / 加害者 / 自己形成 / 罪悪感 |
研究概要 |
本研究の課題は、いじめの加害体験が自己形成に及ぼす影響について、文献研究と質問紙/面接調査によって問題点を抽出し、臨床心理学的な視座を明らかにしながら検討することである。現代のいじめにおいては「加害-被害」という役割は容易に反転するという認識をふまえ、いじめが顕在化し、「加害者」として指導を受けるという局面に焦点づけるという方向性をもって調査をおこなった。今年度は、文献研究、大学生に対する回顧的調査、養護教諭への半構造化面接を実施した。1.文献研究では、関係性攻撃の加害者となりやすい人のパーソナリティ特徴には安定性が認められること、加害者のストレスや自尊感情についての研究はあるものの自己形成との関連を検討した実証的研究はきわめて少ないこと、教師による指導の効果が大きいこと(教育心理学からの研究)、加害者は傷つきやすい自己の投影と迫害によって偽統合の安定をつくるが、加害にまつわる経験は「意識されていない罪悪感」として居場所が与えられないまま迫害的に働きつづける可能性と、思春期特有の加害-被害者の結びつき(精神分析:対象関係論からの研究)が有効な視点として整理された。2.大学生に対する回顧的質問紙調査(347名)では、加害体験を報告する者の少なさ(被害36%に対して加害13%)と言語化への抵抗感に加えて、他者とのあいだで表出し・修復する機会をもつことの重要な意味が明らかとなってきた。3.養護教諭への面接調査(12名)からは、加害体験が、環境の責任に帰する態度や、集団からの排除による否定的アイデンティティの形成、植えつけられた罪悪感による自己懲罰へとつながる過程が明らかになり、さらに、学校による支援上の留意点について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(平成23年)に予定していた、大学生への回顧的質問紙調査、養護教諭への半構造化面接、および文献研究については順調に進行している。半構造化面接に応じてもよいとする調査協力者が少なかったことに対しては、平成24年度前期授業(5月)に200名の追加スクリーニング調査を行い(実施済)、今後半構造化面接データを追加する予定であり、この点でやや遅れていた点も見通しが立った。
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今後の研究の推進方策 |
大学生への回顧的な半構造化面接を追加し、養護教諭に対する面接調査とともに逐語化したものについて質的な分析をおこなう。養護教諭の視点と比較をするために一般教諭からの聴取を検討する。また、昨年度の大学生を対象とした半構造化面接で、傍観者/聴衆の立場でいじめに関与したことによって罪悪感をもち続けている調査協力者がおり、一方で「加害経験者」というスクリーニングで半構造化面接に応じた学生が少なかったことをふまえると、今後、中高生を対象にするときには、傍観者や聴衆を含めて、内的な意味をもつ加害(と罪悪感)にまで対象を広げて吟味することが適切だと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
中学校教諭と生徒に対する半構造化面接結果の逐語化および質的分析補助(大学院修了生)に充てる人件費・謝金、出張旅費(日本教育心理学会での成果発表、福岡での養護教諭との継続的事例研究、英国での加害者カウンセリングのレヴュー調査)、そして、加害者カウンセリング等に関する洋書の購入を計画している。
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