研究概要 |
本邦では成人の5人に1人が不眠をかかえているとされる(Kim et al., 2000)。不眠症に対して薬物療法が通常用いられるが、服薬に不安をいだく者も少なくない。その現状を踏まえ、本研究は睡眠改善に有効で安全な心理学的手法の開発を志向したものである。不眠の改善を考えるにあたり、入眠時の呼吸に着目して、(1)各睡眠段階における呼吸パターンの特徴、(2)呼吸調整(入眠時の呼吸パターンの模倣)による眠気の喚起や入眠促進の効果、(3)適用範囲、を明らかにすることを目的とした。 (1)入眠時の呼吸パターン:各睡眠段階における呼吸パターンの特徴を検討した。健常者10名を対象にして仰臥姿勢にて脳波・眼電図・筋電図・呼吸音・呼吸波形を測定した。睡眠段階はRechtschaffen et al. (1968)の基準に従って判定し、1サイクルの呼吸に関しては呼気・休止・吸気の3相に分けてそれぞれの時間を求めた。その結果、睡眠段階1と2において、呼気が短く休止と吸気が長くなるという呼吸パターンが見出された。 (2)呼吸調整の効果:不眠傾向を有する大学生12名を対象にして、入眠時の呼吸パターンを模倣することで眠気が喚起され入眠が促進されるか検討した。その結果、実施前よりも呼吸調整の実施後の方が有意に眠気が喚起され、プログラムの参加前よりも参加後において入眠潜時が有意に減少することが明らかになった。 (3)適用範囲:精神疾患を有する外来および入院患者19名を対象にして。ストレス対処プログラムの一環として呼吸調整のセッションをおこなった。その結果、実施前よりも呼吸調整の実施後の方が有意に眠気が喚起されることが明らかになった。また、本法の実施による副作用は認められず、精神疾患を有する者を対象にしても安全に実施できることが確認された。
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