研究課題/領域番号 |
23530946
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 敦子 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20542286)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 神経心理学 / アルツハイマー病 / 失書 |
研究概要 |
本研究では、アルツハイマー病(以下AD)の失書症状にみられる質的特徴を把握するために、書字と他の言語機能との関連、さらに記憶や構成といった認知障害間の関連性を見出し、どのような認知機能障害に伴って書字の障害が出現するのかを検討した。さらに、ADの書字障害の特徴から、脳損傷患者で得られてきている失書症状との異同について考察し、失書の発現機序について検討した。欧米語圏で得られている知見とともに日本語に特有な失書の特徴についても検討することで書字のメカニズムを心理学的に解明し、脳機能画像検査データとの相関も用いることにより神経基盤との関連についても考察する。老年・初老期発症AD、AD以外の認知症群に関して、横断的に被験者に書字課題の評価、その他の認知課題を行なった。今後、縦断的変化についての検討を行ない、視覚、構成、記憶、注意といったいくつかの認知機能的側面と失書症状の関わりについて考察し、症例群としての特徴を調べる。症例検討として、非典型的な老年発症・初老期発症AD例の2症例に関して失書症状を検討する検査を施行した。これらの症例は漢字が思い出せず、字形想起困難が強い症例と漢字の形態はかなり想起可能ではあるものの構成障害が強い症例である。これら2例には他の症例とは異なり、軽症であるにもかかわらず形態的な錯書が多くみられた。この錯書と漢字の形態的処理障害、記憶障害、構成障害、書字運動覚の障害などとの関連から症例間の違い、他の症例との違いについて検討をおこなった。どのような認知機能障害が書字に影響をもたらしているのかについて考察を進め、書字障害の特徴、経時的な変化についてもまとめる。研究の遂行に当たっては十分に配慮するとともに被験者の同意書を徴し、プライバシーを厳重に保護して研究を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)老年発症・初老期発症ADに関して,書字課題と合わせてその他の認知課題も行うという検討に関しては、多くの老年期発症AD患者、健常高齢者に検査を実施することができた。初老期発症ADは老年期発症ADに比較して症例数が少なかったが、今後できるだけ多くの患者に施行し,群間比較を行いたい。2)AD以外の認知症にも同じ課題をおこない、横断的にADとの比較を行う検討に関しては、少しずついくつかのタイプの認知症に関して症例を増やしているところであり、今後、症例群として検討するために、出来るだけ多くの患者に施行していきたいと考えている。3)非典型的なAD2症例の失書症状について様々な検査を施行中であり、継時的に書字を含む認知機能の変化を捉えられつつあり、おおむね順調に検査を進めることができていると考えられる。今後もこのような症例に関する継時的な研究を続けていく。
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今後の研究の推進方策 |
1)、2)の症例群における検討を引続き行う。横断的検討に関しては,分析を終えて考察していく。書字障害にみられる変化が、記憶や構成といった他の認知障害における変化とどのように関わるのかについて、分散分析、偏相関分析を用いて詳しく検討していく。被験者群による違い(老年期・初老期発症AD、AD以外の認知症、MCI、健常被験者)も認知症の重症度を合わせて行う。1)と同様に分散分析、偏相関分析によって解析し、考察する。SPECTデータについても書字課題、他の認知機能課題との関連について偏相関分析を用いて調べる。2)の症例検討、3)の検討に関しては各症例に見られる障害を詳しく調べるための検査を引き続き進めながら、書字やその他の課題にみられる変化について分析・考察し、論文にまとめていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
統計、画像解析・視覚呈示用実験ソフトなどを購入し、収集したデータの分析、あるいはデータの収集に用いる。多くの被験者に検査、課題を依頼し、できるだけ多くのデータを収集するのに必要となる謝金に使用する。本研究で予定している多人数の被験者の検査は一人では困難である。AD群(老年期、初老期発症)や、その他の認知症群についても合わせて横断的・縦断的検討を行うため、研究協力者(大学院生等)に検査補助、解析補助等を依頼し、謝金を支払う。また、研究成果を積極的に発信するために、国内外での学会発表のための旅費や、英文論文の校閲料を含む論文投稿のための経費を必要とする。
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