研究課題/領域番号 |
23530948
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 克紀 筑波大学, 人間系, 准教授 (50261764)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 社会的隔離 / マウス / 親和行動 / 社会行動 / 発達 / 身体接触 / 攻撃行動 |
研究概要 |
雄マウスを単独で飼育すると,(1)攻撃増加,(2)臆病反応亢進,(3)他の雄への関心増大が生じる.成熟前の若齢期と成体時では影響が異なり,成体期の単独飼育では(2)の変化が小さくなる.これまでの研究から,他の雄由来のニオイ物質ならびに親和行動とそれと不可分な身体接触の剥奪が重要であることがわかってきたが,そうした変化をもたらす仕組みやその生物学的意義については結論が出ていない.本研究では,マウスの社会行動発達という観点から,若齢期における親和行動の役割について検討した. 単独飼育では個別ケージでの飼育が標準的だが,本研究では,群飼育用の市販ケージを金網製の仕切りで等分し,直前までいっしょに飼育されていた同腹の雄3匹を1匹と2匹に,あるいは2匹を1匹ずつに分けて飼育した.ケージは同じで床敷きもつながっているが,身体接触や親和行動は金網によって制限された.被験体としてICR系の雄を用い,3週齢で離乳後,4週齢から5週間,特定の条件で飼育し,9週齢で同週齢の新奇な雄と出会わせ,社会行動を評価した. 【実験1】集団の大きさの効果 4つの条件を設けた.個別ケージで単独飼育(I群),8mm角の金網で1匹と2匹に分けて飼育(S群),同じく1匹ずつ分けて飼育(P群),3匹で群飼育(G群).攻撃はI群でもっとも多かった.S群単独とP群はI群より少なかったが,両者に差はなかった.S群ペアとG群では攻撃が観察されなかった.攻撃は金網で隔てた飼育によって減じたが,金網の向こうにいる同腹の雄が1匹か2匹かは影響しなかった. 【実験2】金網の目の大きさの効果 15mm角の金網製の仕切りを新たに製作し,同腹の雄を1匹ずつ分けて飼育し,透明塩ビ板で隔てた条件と比較した.金網の目の大きさは8mm角のほぼ4倍になり,親和行動や身体接触の制限も低下したと推測されるにもかかわらず,攻撃量に違いは認められなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は2つの実験が予定されていたが,「実験1」として計画されていた「集団内における親和行動の剥奪が社会行動発達に及ぼす影響」に関する実験を複数に分け,15mm角の金網製仕切を新たに制作するなどして,より詳しい検討を行った.その結果,「実験2」として計画されていた「他個体に対する関心への影響」に関する実験を遂行できなかった.しかし,これは,当初の計画とは異なるものの,研究の遅れとはいえず,全体としては「おおむね順調に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)23年度の実験1および実験2で得られたビデオ記録をさらに解析し,相手個体の接近・接触に対する反応について検討を進めるとともに,実験2については例数を追加する.(2)現在進行中の実験3を完結させる.実験3では,8mm角の金網で2匹を1匹ずつ隔てて飼育するが,飼育途中で週に2回,半数のケージでは個体を入れ替え,残り半数のケージではハンドリングだけを行っている.つまり,床敷きがつながっているとはいえ,金網によって分けられた床敷きが混じり合ってはいないので,入れ替え条件では隣の雄の床敷きや餌箱などに強制的に暴露させ,ニオイ物質の影響を相対的に低下させることによって親和行動・身体接触の役割を際立たせることができる.(3)23年度に当初計画されていたが実施できなかった「他の雄への関心」に関する実験を行う.これまで撮影された出会わせテストのビデオ記録から攻撃出現前の追従反応の頻度を改めて測定し直して飼育条件間で比較するとともに,実験4として選択反応を用いて他の雄への選好を評価する.(4)これまで飼育期間中に金網越しに行われる社会的相互作用については記述してこなかったので,「実験5」としてこれを明らかにしたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)昨今,ビデオテープによる画像記録が急速に陳腐化しており,ミニDVテープを用いたハンディカムはもはや市販されていない.そこで,そうした技術革新に対応するため,24年度も,メモリ内蔵型のハンディカムを2台,ハードディスクレコーダ1台,記録したHVビデオ再生し,データを得るために用いるパソコン1台と画像格納用の大容量ハードディスク2台を購入する(2)動物飼育用の固形飼料,床敷き,消毒液など薬品類,飼育器材を随時購入する.(3)主要な被験体であるICR系マウスを随時購入する.(4)国内外の学会に発表のため出かける旅費を2回分支出する.(4)上記「実験4」で使用する装置の製作費を支出する.
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