研究課題/領域番号 |
23530948
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 克紀 筑波大学, 人間系, 准教授 (50261764)
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キーワード | 社会的隔離 / マウス / 親和行動 / 社会行動 / 発達 / 臆病反応 / 攻撃行動 / 雄集団 |
研究概要 |
雄マウスを単独で飼育すると,(1)攻撃増加,(2)臆病反応亢進,(3)他の雄への関心増大が生じるが,そうした変化をもたらす仕組みやその生物学的意義については結論が出ていない.本研究では,社会行動発達という観点から,単独飼育によって失われる雄同士の親和行動に着目し,その若齢期における役割について検討した. これまでの研究から,2mm角や8mm角など目の細かい金網で隔てられた場合は攻撃が減少するが,15mm角など目の粗い金網の場合は攻撃がむしろ増加し,同時に臆病反応が低下するという結果が得られた.つまり,攻撃成分と臆病成分では親和行動の影響が異なる可能性が示唆された. 今年度は観点を変え,同居雄間の闘争を引き起こす環境要因について分析を加えた.飼育ケージ交換後に同居雄同士の闘争がしばしば観察されるが,系統的研究はない.そこで,飼育ケージや床敷きのニオイの喪失が闘争の引き金になるかどうか調べた.まずケージ交換後に闘争がどの程度起こりやすいか,7系統の成体雄について調べたところ,大きな系統差が認められたので,ケージ交換後闘争が確実に起こる系統・集団を選び,きれいな床敷きが入った新しいケージに移す条件(通常のケージ交換)とハンドリングだけで元の汚れたケージに戻す条件を比較した.その結果,通常のケージ交換に比べて闘争の出現率の低下や潜時の延長は生じるものの,ハンドリングだけでも雄間闘争が誘発されることが明らかとなった.つまり,ケージや床敷きのニオイ喪失は,ケージ交換に伴う雄間闘争の出現に重要ではないかもしれない.むしろ雄集団に対するある種の「攪乱(disturbance)」が雄間闘争のきっかけになるのではないかと推測された.このように,若齢期に親和行動を剥奪されていない同居雄同士においても闘争が起こりうることから,若齢期の雄集団形成における親和行動の役割についても検討が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度に実施した15mm角の金網を用いた実験で予想外の結果が得られたため,24年度は条件を増やしてその追試を行ったが,ほぼ同じ結果が得られた.つまり,透明塩ビ板条件と比較して,15mm角条件では攻撃は減少しないか,あるいは増加傾向が示された.一方,15mm角条件では,2mm角および8mm角条件では認められなかった臆病反応(freezing)の低下が観察された.臆病反応の低下が攻撃増大の副産物である可能性も残っているが,この結果は攻撃成分と臆病成分では影響の受け方が異なることを示唆した.そこで,今年度は,研究の方向を再検討し,雄集団内での親和行動のあり方を探るため,ケージ交換後に観察される同居雄同士の闘争の誘発因について検討した.この方向の実験は当初予定されておらず,その点で「やや遅れている」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)24年度および25年度に行った実験で撮影したビデオにまだ未分析のものがあり,それらについて,攻撃成分と臆病成分では発達における親和行動の影響が異なるという観点から解析を進める.(2)最終年度を迎えるに当たり,これまで検討できていなかった「他個体への関心」について,社会的認知という観点から調べる.例えば,他個体の有無を弁別手がかりにした学習実験を行い,親和行動の制限がその成績に及ぼす影響を評価する.(3)ケージ交換後の雄間闘争について,ケージ内の雄間関係が「撹乱」後の闘争発現にどのように関係しているのか調べる.これによって,集団形成における同居雄間の親和行動の役割について検討したい.(4)これまでの研究では,金網で隔てられた雄同士をテストで出会わせることはなかった.しかし,親和行動の影響は若齢期を隣同士で過ごした雄に顕著に現れるかもしれない.そこで,同腹でない雄同士を金網で隔てて飼育し,その2匹を出会わせた場合の社会行動を評価する.
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)当初予定していた学会への参加を見送り,旅費を支出しなかったため.(2)研究計画の変更に伴い,実験動物の購入費およびその飼養経費(餌および床敷き代)を支出しなかったため.(3)研究計画の変更に伴い,予定された実験装置を製作しなかったため. (1)今年度見送った実験装置の製作費として支出する.(2)新たに計画する実験で用いる実験動物の購入費ならびに飼養経費として支出する.
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