雄マウスを単独で飼育すると,(1)攻撃増加,(2)臆病反応亢進,(3)他の雄への関心増大が生じるが,そうした変化をもたらす仕組みやその生物学的異議については結論が得られていない.本研究では,社会行動発達という観点から,単独飼育によって失われる雄同士の親和行動に着目し,その若齢期における役割について検討してきた. 昨年度は,同居雄間の闘争を引き起こす環境要因について分析を加えた.7系統の近交系において飼育ケージ交換後の自発的闘争の起こりやすさを調べたところ,大きな系統差が認められ,C57BL/6とHで闘争が自発されやすかった.また,実際にはケージ交換を行わず,ハンドリングだけを行い,すぐに元の汚れたケージに戻した場合でも,多くのケージで闘争が観察された.この結果は,ケージのニオイ喪失ではなく,ある種の外的攪乱が闘争の誘発に関わっていることを示唆した. そこで,本年度は,C57BL/6を対象に,体毛を剃ることによって個体識別を行い,他の雄との相互作用を闘争得点として個体ごとに数量化した.闘争得点は攻勢的行動を示すほど増加して正に偏り,逃走や防御姿勢を示すほど減少して負に偏った.その結果,雄の同腹仔集団は次の4つのタイプに分類された.独裁型:1匹のみが正の得点を示し,他の雄はすべて負の得点を示す.1匹負け型:1匹のみが負,他の雄はすべて正の得点を示す.格差社会型:正の得点の雄も負の得点の雄も複数いる.大乱闘型:すべての雄が正の得点を示す.各ケージの分類タイプは,ケージ交換を実際には行わずハンドリングだけを行った場合でも変わらなかった.従来,マウスに典型的な集団構造は「独裁型」であるといわれてきたが,「大乱闘型」は若い雄の集団で認められることが多いことから,今回明らかになった分類タイプは,大乱闘型から独裁型へと移行していく順位決定の過程を反映している可能性がある.
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